たぶん週1エッセイ◆
東京電力はどこまで嘘つきなのか4/第三者委員会は赤子かお友達か

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 2013年3月13日午前、国会事故調調査妨害事件について、「国会事故調への東京電力株式会社の対応に関する第三者検証委員会」が、報告書を発表しました。
 「第三者」とはいえ、東京電力が人選し、東京電力の依頼を受けた人たちが、東京電力の広瀬直己社長が、「玉井が思い込みによって誤った説明をしたが何らかの意図によるものではない、上司は一切関与していない」というストーリーですでに国会で答弁している事件について、広瀬答弁と異なる結果を出すことは万に一つもあり得ないと思っていましたが、その通りの報告書でした。広瀬答弁と変わったところはただ1点、広瀬答弁で「建屋というのは暗いもの」と思い込んでいたという点について、原子炉建屋が暗いと思い込んでも「建屋カバーがついたから今は真っ暗」にはならないでしょと私が「社長もでたらめ答弁」で突っ込みを入れていた点について、建屋カバーの外観を見て光を通さないものと思い込んだと変更しています。
 もともとそういう性質のものですから相手にしなくてもいいかとも思いますが、せっかく調査されたのだから、少しコメントしておきます。

 東京電力はどこまで嘘つきなのか2/嘘の上塗り以来、東電側釈明に関して私が一番疑問に思っている、それでは玉井企画部部長はどうして建屋カバーがついたから今は真っ暗と「思い込んだ」のかについて、東電の第三者委員会報告書は、「建屋カバーが設置された後で外観を見たことがあり,その材質が金属製かプラスチックのような樹脂だと認識していたように思う。それで,建屋カバーが光を透さないと思い込んでいた。」(報告書20ページ)と記載しています。玉井企画部部長が、なぜ建屋カバーがついたから今は真っ暗と「思い込んだ」のかについての説明は、32ページに及ぶ報告書中ただこの3行だけです。ここで書かれている、玉井企画部部長の弁解は、意外ではありません。意図的な嘘ではなく思い込んだというストーリーである限り、こうとしかいいようがない内容ですから。私が聞きたいのは、そしてこの事件を調査する者が聴取・追及すべきは、直前には柏崎刈羽原子力発電所技術総括部長を務めていた技術系の専門家で事件当時は国会事故調の質問について社内の担当者に問い合わせをして確認し集約して国会事故調に回答することを日常業務としていた玉井企画部部長が、なぜ外観を見ただけで何ら確認せずに思い込み、その後もまったく担当者に何一つ確認しないままに国会事故調に説明したのかということです。そのことについてこの報告書ではひと言も触れていません。このことを調査せず、外観を見て思い込んだという玉井企画部部長の言を追及もしないで放置するのであれば、それは「調査」の名に値しないと思います。
 東電の第三者委員会の報告書は、「当委員会も,現場視察の際に,建屋カバーの目視確認をしたが,建屋カバーの材質が一見して明らかに透光性があるようには見えなかったものであり,玉井が誤解していたことにも一応の理由があるといわざるを得ない。」(報告書21ページ)と玉井企画部部長の肩を持っていますが、素人に「一見して」わかるかどうかなど関係ないですし、自分が知らないことなら確認するのが当然でそういう業務だったのになぜそれを怠ったのかの答えはどこにも書かれていません。そこに関心を持たないとすれば、「第三者委員会」としての職務怠慢か、志そのものを疑います。

 東電の第三者委員会報告書は、玉井企画部部長がすべてを承知した上で嘘を言ったのではないという根拠を結局、調べればすぐ露見するような嘘を言うはずがないという点に求めています。結局は、この報告書のキモはここです。
 「玉井が,4階が「真っ暗」ではないことや,建屋カバーに照明装置が設置されていることを知りつつ,それらについて殊更に嘘を言えば,その後の詳細説明の際に嘘が露見するおそれが大きく,そうなれば問題化する可能性も十分にあったのであるから,玉井がそのようなリスクを承知の上で,殊更に事実に反する説明をしなければならなかった理由は見当たらない。玉井が,すべてを承知の上で虚言を弄するのであれば,調べれば直ぐに露見するような露骨な嘘を言わずに,危険性の程度を強調するなど巧妙に説明したはずであり,その点からも玉井が故意に事実に反する説明をしたと考えることには無理がある。」(報告書22ページ)、「そうすると,玉井が,1号機原子炉建屋4階の現地調査が実施された際に,現場に赴けば直ぐに露見するような嘘を敢えて言う必要性もなく,仮にそのような嘘を故意に言ったとすれば,後の対応に苦慮する事態を自ら招くようなものであり,故意に嘘の説明をしたとみるのには相当無理があるといわざるを得ない。」(報告書23ページ)
 「玉井が、すべての承知の上で虚言を弄するのであれば・・・危険性の程度を強調するなど巧妙に説明したはず」という危険性の水増し説明も、玉井企画部部長はさんざんしていて、東電の第三者委員会ですら、けがをする危険については「やや大げさな表現にも感じられる」(報告書18ページ)と言わざるを得ないもので、そういう点からすると、玉井企画部部長の説明は全体として虚言を弄したものと評価してもよさそうなものですが、その点は置きましょう。
 さて、そのすぐ露見する嘘を言うはずがない人が、つい最近、国会事故調への「今は真っ暗」発言について、「その中で、現場の明るさについてご質問があり」とまるで国会事故調側が予期せぬ質問をしたからとっさに誤った答えをしたかのような、すぐ露見する嘘を言って東京電力がその内容の見解を発表し、私たちから指摘されてすぐに嘘が露見し、東京電力がすぐに見解の訂正を強いられて恥をかいたという事件があったこと(「嘘の上塗り」参照)について、東電の第三者委員会はどのような見解をお持ちなのか、是非とも聞きたいところです。この訂正のことは、報告書で事実経過として記載されている(報告書2ページ)のですが、そういった訂正に至る経緯はまったく解明されず、東電の第三者委員会では全然関心も持たれていないようです。私には、現につい最近そのすぐに露見する嘘をついた人を弁護するには、これほど不適切な論拠はないと思えるのですが。

 東電の第三者委員会の報告書は、問題となった2012年2月28日の説明が、協力調査員のみを対象としたもので田中三彦委員の出席は予定されていなかったという主張をして、国会事故調が1号機原子炉建屋4階の調査を断念するに至った原因について田中三彦委員に責任を転嫁しようとしています。
 長文になりますが、正確さを期すためそのまま引用して説明します。「上記経緯から明らかなように,客観的には,当日の打合会は,事務局間の打合せの段階であり,その際に,協力調査員に対して1号機建屋の危険性に関する説明をすることとなっていたものであり,当日,国会事故調の1号機建屋4階のIC周りの視察についての結論が出ることは予定されていなかったものと考えられる。玉井の当日の説明に対して,国会事故調から,例えば,IC周りの現場調査を実施したいので随行をお願いしたい旨の連絡があれば,玉井としては,上司の判断を仰ぐことになることは予想していたはずである。随行できないとの話は,後記するように,福島第一の現場の意向によるものであるので,それと違う結論の可否を検討するのであれば,より上の地位にある者の判断を経て回答することにならざるを得ない事項であり,玉井個人で判断できる事項ではないからである。ところが,その打合会に協力調査員だけでなく,田中委員が出席したため,玉井の説明後,国会事故調の現場調査の対象から1号機建屋4階を外すという判断がなされるという結果となったのであり,当初予定通りの協力調査員への打合会で終わっていれば,最終結論に至る経緯については,違った推移を経た可能性があったであろう。」(報告書13ページ)。つまり、もともとは田中三彦委員は出席予定ではなくこの日に調査場所を決定することは予定されていなかったのに、田中三彦委員が出席したからこの日断念という結果になったというのです。また、この記述は、その内容から見て、私が「社長もでたらめ答弁」で、東京電力の同行拒否を玉井企画部部長の一存で断言できるはずがないと指摘したことへの対応の意味もあるのでしょう。そうすると、「上司が一切関与していない」かどうかも、この主張の成否にかかってきそうです。
 2012年2月28日の東京電力の説明が実施されるに至った経緯は、国会事故調事務局と東京電力の折衝の部分ですので、私には明確にはわかりません。ただ、私自身は、国会事故調事務局から協力調査員は出席してくださいといわれたのではなく福島第一原発現地調査の参加者は出席して欲しいといわれたのですし、そもそも現地調査参加者のうち田中三彦委員だけを排除した会合を持とうという発想はどこからも出て来得ないと思うのです。現地調査の事実上のトップの田中三彦委員にだけは説明したいというのならまだわかりますが、事実上のトップだけを排除して現地の状況を説明するなんてまったくナンセンスです。田中三彦委員にも聞いてみましたが、もちろん、最初から事務局から呼ばれていたといっています。

 東電の第三者委員会のメンバーはいずれも相当期間法律実務家としての経験がある方々ですが、技術系の専門家で社内の担当者への問い合わせを日常業務としていた玉井企画部部長が外観を見て思い込み一切調査しなかったと言えばそれで納得したり、現地調査予定者のうち田中三彦委員だけを排除した説明の予定だったと言えばそれで納得したり、「すぐ露見するような嘘を言うはずがない」ということを重要な論拠とする報告書を作成するに当たってその人がつい最近すぐ露見する嘘をついたことにも無関心だったようです。私は、弁護士という仕事をやってきた者として、それはかなり不自然だと思います。東電の第三者委員会が、東電の連中に赤子の手をひねられたのか、不自然だと思いながらお目こぼしをしたのかどちらなのかは、もちろん証拠はありませんから断言はしませんが、以上に述べた状況証拠からの判断では後者ではないかと、私には思えてしまいます。 

「何らかの意図によるものではない」けど、またこんなことが?→東京電力はどこまで嘘つきなのか5/今度はビデオが真っ暗

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