たぶん週1エッセイ◆
映画「昴」
ここがポイント
 エピソードが細切れに押し込まれ、ちょっと窮屈というか急いだ感じの作りに思える
 おじさん世代には、「バレエ界のあしたのジョー」という感じ

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 バレエ根性物映画「昴」を見てきました。
 封切り2週目にして新宿ミラノでは一番小さなスクリーンのミラノ3に落とされていましたが、日曜日でもあり5割弱くらい入っていました。客層はやはり女性客中心で母娘連れが目につきましたが、何故か中高年男性1人客もちらほらいました。

 原作を読んでいないので、どれくらい原作に気を遣ったのかはわかりませんが、エピソードが細切れに押し込まれ、シーンが跳んでついて行けなくなったところで後から台詞で解説が入ってようやくつながりが見えることが多々あり、原作を読んでいないとちょっと窮屈というか急いだ感じの作りに思えます。
 それにもかかわらず、すばるたちがダンスの勉強のためにコンサートに行くシーンをむりやり作って、主題歌を歌う韓国の人気バンド東方神起が歌うシーンを長々と挿入したのは呆れました。主題歌を歌わせるバーターなんでしょうけど、ストーリーと全く関係ないああいう映像をやめれば、ストーリーをうまくつなげるためにあった方がいいけど削ったと思われるシーンが相当程度採用できてよりわかりやすい映画になったはずですが。
 いろいろな要素で窮屈な作りのために主人公の宮本すばる(黒木メイサ)をめぐる人間関係が十分描けていないというか、説明不足の感じがしました。特にすばると父親の関係は何度かそれらしいシーンがあるのですが、基本的にはごく普通の親子関係に見えます。父親から怒られるシーンは弟和馬の病気で遊びに行けないことで拗ねた小学生時代のすばるをしかるシーンが1シーンあるだけ。それで、すばるのバレエ団デビューの公演に父親が来るか来ないかをすばるが気に病むシーンが出てくるのはどうも唐突な感じがしました。公式サイトのストーリー説明では「弟の死をきっかけに父親から見放され、絶望の淵を彷徨うすばる」なんてありますから、原作ではそういう設定で父親とはずっとぎくしゃくがあったということでしょうけど、映画だけ見るとそういうふうには見えませんでした。また、幼なじみの呉羽真奈(佐野光来)のすばるへの愛憎も、今ひとつ「憎」の方が言葉だけで、見ているだけだと人のいい真奈ちゃんがすばるへの友情を優先して支援しているって感じです。短時間にストーリーを展開させるためでしょうけど、ライバルの激しい嫉妬とか陰謀とかそういう側面はほとんど感じられませんでした。

 すばるがバレエがうまくなるために、キャバレーで踊ったり、ストリートダンスで揉まれたりするのって、私たちの世代には、「バレエ界のあしたのジョー」という感じ。ずっと下積みで苦しんで、でも頭角を現すと世界のトップクラスまで一気に行っちゃうのも同じですね。

 キャバレーのオーナーの元ダンサー五十鈴(桃井かおり)との語りは、もう少ししんみり聞かせて欲しかったと思います。
 ライバルのリズ・パーク(Ara)は、映画で見る限り、ライバルじゃなくて大親友ですばるの最大の理解者・支援者に見えます。リズの容貌・センスはとても格好いいんですが、韓国女優に日本語でしゃべらせているので台詞が浮いて違和感が残りました。
 すばるのダンス、高熱を押して出場した上海でのコンクールのダンスは高熱にもかかわらず軽やかと台詞では言っているんですが、足音はドンドンしてるし着地が少しよろけてるし、素人目に見る限りは「軽やか」っていうのはちょっとあんまりに思えました。
 小学生時代の和馬とすばるのけなげな演技には心打たれますが、同じシーンを繰り返し使わなくてもとも思いました。

 全体として見れば、そこそこ楽しめると思います。前半のストーリー展開をもう少し見やすくつなげてもらえばもう少し評価できると思うのですが。

(2009.3.29記)

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