庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ソロモンの偽証(前編・後編)」
ここがポイント
 裁判よりも、子どもの生きづらさと前向きに取り組む時の強さと希望などについて考えさせられる
 藤野涼子の目力と松子の健気で純真な様子に涙する

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 宮部みゆきのミステリー小説を映画化した「ソロモンの偽証 前編・事件」、「ソロモンの偽証 後編・裁判」を一気見してきました。
 「前編」は封切り6週目、「後編」は正規の封切りから2日目の日曜日、「前編」は新宿ピカデリースクリーン5(157席)午前11時55分の上映、「後編」は新宿ピカデリースクリーン3(287席)午後3時15分の上映で、いずれもほぼ満席。

 1990年12月25日、大雪の朝に城東第三中学に登校した2年A組の藤野涼子(同名:新人)と野田健一(前田航基)は、不登校だった同級生柏木卓也(望月歩)の死体を発見した。警察は自殺と判断したが、2年D組の大出俊次(清水尋也)らが屋上から突き落としたのを見たという告発状が校長と藤野宛に届いた。校長から相談を受けた警察の担当刑事佐々木(田畑智子)はカウンセリングと称して告発状の差出人探しを行い、三宅樹里(石井杏奈)と浅井松子(富田望生)に的を絞り、沈静化を図る。2年A組の担任森内恵美子(黒木華)宛の告発状が破棄されてゴミ棄て場に捨てられていたという通報を受けたテレビ局記者茂木(田中壮太郞)は、柏木拓也は殺されたと断定し担任が逃げる映像を入れたニュースを放映した。学校側は慌てて父母説明会を開催し、騒然とする父母に対し、佐々木が、目撃できる場所は学校の屋上しかない、クリスマスイブの深夜にその者はなぜいたのか、偶然居合わせることはあり得ない、見ていたのなら通報もせずに立ち去ったのか、実は目撃者などいないのだ、告発状はでたらめだと説明し、父母たちは納得した。両親からそれを聞いて動揺した松子は、樹里ちゃんのところへ行ってくると家を飛び出したが、そのまま車にはねられて死亡した。真実を知りたいという思いに悶々としながら3年生となった藤野は、柏木の小学校の同級生だという他校生神原(板垣瑞生)の示唆もあり、自分たちで裁判を開いて真実を明らかにしようと思い立つが…というお話。

 人を思いやる心に欠ける生徒の暴力・いじめや心ない言葉に傷つき動揺する子どもたちの生きづらさ、悩み、悲しみと、前向きにものごとに取り組み始めたときの瑞々しくはつらつとした様子、強さと希望を感じさせ、同時にその落差と両極端での揺れをも感じ、子どもを持つ親として改めていろいろに考えさせられました。
 親としての視点でいえば、藤野涼子の不安・不満・苛立ちを示す無言のシーンの目力、いじめられっ子で容姿に恵まれない松子の健気で純真な様に、思い惑わされ、涙します。
 校内裁判というテーマですが、裁判よりも、子どもたちの生き様とそれを見守る親たちの思いの方に感じ入りました。

 裁判については、中学生同士ということで、刑事裁判での検察側の優位を前提とした制度上の前提を取り払い、起訴状もなく、無罪推定もなく、立証も検察側立証からでなくいきなり弁護側の立証から入るなど融通無碍にやっています。尋問も、誘導尋問を排除することもなく、唸らせられる尋問もなく、いかにも素人くさくて、しかし、それがむしろ瑞々しくていいように思えました。
 結末については、これでよかったと感じるか、物足りなく感じるか、意見が分かれると思います。私は、裁判自体がテーマの作品ではないという前提で、これでよかったのだろうと思います(タイトルや、「嘘つきは、大人のはじまり」というキャッチコピーには違和感を覚えるというか、「偽りあり」と思いますが)。
 ただ、小林電器店の店主(津川雅彦)が、半年前に店の前の電話ボックスで電話していた見知らぬ生徒の顔を覚えているという前提はいかにも無理だと思います。業界人としては、目撃証言の信用性についてのこういう神話がどれだけの冤罪事件を生み出してきたかに思いを馳せたいところです。

【原作を読んで追記】
 原作ではまっすぐで純粋で弱い者への共感力に富む切れ者の優等生として描かれている主人公の藤野涼子を、映画では三宅樹里と浅井松子が大出俊次らから暴行を受けている(さらにいえば原作では三宅樹里と浅井松子がともに暴行を受けるシーンはないのですが)のを見て見ぬふりをし、そのことを同級生から責められたり、自殺まで考えるという設定になっています。あまりに純粋なキャラクターよりも弱さも欠点もある未熟で陰影のあるキャラクターにした方が観客が共感しやすいと考えたからなのでしょうけれども、私は、映画を見ている時点(原作を読む前の時点)でもやや藤野涼子のキャラと少し合わない感じを持っていました。
 小林電器店の店主小林修造が半年前に店の前の電話ボックスで見た生徒の顔を覚えていた理由は、原作では作品の冒頭から割と丁寧に説明されていて、映画とは印象が違いますが、それでもどうかなという思いは残ります。
(2015.4.13記、2016.3.6追記)

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