庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ノア 約束の舟」
ここがポイント
 人間観、ノアの人物像、神がなぜノアを選んだかがテーマ
 子どもが産めない女を伏線に使っているが、結局は産めないことは不幸という印象
 「空前の大ヒット」という予告編のナレーションはあんまり

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 旧約聖書のノアの箱舟のエピソードを映画化した「ノア 約束の舟」を見てきました。
 封切り2週目土曜日、新宿シネマスクエアとうきゅう(224席)午前11時の上映は2〜3割くらいの入り。

 楽園を追放されたアダムとイヴの子孫は、カイン、アベル、セトの兄弟の時代にカインがアベルを殺害し、神の言葉を聞くのはセトの子孫だけとなった。セトの子孫として荒野で孤独に暮らしていたノアは幼き日に父をトバル・カインに殺害された。成人して妻ナーマ(ジェニファー・コネリー)と3人の息子とともに暮らしていたノア(ラッセル・クロウ)は、大地から突然花が咲くのを見、夢で世界が水に沈んでいるのを見て、神の声を聞いたと言い、祖父(アンソニー・ホプキンス)が住む山へと旅する。途中襲撃され重傷を負った生き残りの少女イラを助け、荒野の「番人」に追われながら番人の信頼を得たノアは、突然地から水が湧き出し樹々が伸び繁ったのを見て、これで箱舟を造ると言い、その後約10年をかけ箱舟がほぼできあがった。箱舟に鳥や動物たちが駆け込むのを見たトバル・カインと一族は、ノアたちを襲い舟を奪うと宣言するが番人たちに追い払われ、武器を造り兵を訓練して機会を窺っていた。ノアの長男セム(ダグタス・ブース)はイラ(エマ・ワトソン)と恋仲になるが、子どもの時の怪我のために子どもを産めないイラは自分は箱舟に残る資格はないと悲しむ。ノアには妻が、セムにはイラがいるのに自分には女がいないと拗ねるハム(ローガン・ワーマン)はトバル・カイン一族の村に紛れ込み…というお話。

 善悪をめぐる人間観、ノアの人物像、そして神はなぜノアを選んだのかがテーマになっています。
 地上が悪人に満ちノアが善人であるからノア一族のみを残そうとしたという考えを退け、人間には善悪両面がある、誰も皆そうだとノア夫婦に言わせ、ノアには自分は善人だからではなく神の指示に従うから選ばれたのだと言わせています。最後には、妻ナーマに人間は善悪をともに持つ、その善と悪をどう評価するか、神は判断を委ねたのだと言わせています。そこが監督が示したかった解釈であり深みなのでしょうけれども、やっぱり男は妻の掌というか糸を引かれている凧というように感じてしまいます。う〜ん、僻みかな、コンプレックスかな…

 一族だけが生き残るという選択に際して、子どもを産めないイラの悩みが描かれています。イラの悩みは、ノアの隠された思惑と祖父の奇跡で思わぬ展開を見せることになりますが、ストーリー展開とは別にこれではやはり子どもを産めない女は欠陥があるとまで明言しないまでも不幸と評価しているように思えます。今どき作る映画としては、子どもを産めない女性への配慮なり生き様の描き方に疑問を持ちました。

 神から見捨てられ、人間たちにも裏切られたと言って荒野に住む「番人」たち。結局ノアにも尽くしただけという感じで、私には、番人たちが一番かわいそうに思えました。

 箱舟に乗り込む動物たち、どう見ても1種に1つがいには見えません。鳥でも蛇でも同じ種でた〜くさん乗り込んでいったように見えます。そして箱舟に乗っている期間は少なくとも数か月に及んでいたようです(箱舟に乗り込む直前にHして箱舟の中で出産に至るように描かれてますし)が、その間動物たちは何を食べて生き延びていたのでしょう。

 予告編の冒頭に「世界各国で空前の大ヒット」というナレーションが入っています。公式サイトのイントロダクションでは「全世界で公開されるやいなや歴代オープニング記録を塗り替え、37ヵ国でNo.1大ヒットとなり」と書かれています。アメリカで公開初週末興行成績1位は事実ですが、公開初週末(2014年3月28〜30日)の興行収入は約4400万ドル。アメリカの歴代オープニング記録は「アベンジャーズ」(2012年)の約2億0700万ドルだそうです。このノアの少し前で「ハンガー・ゲーム2」(2013年11月23〜25日)が約1億6100万ドル(これが歴代4位だそうな)を叩きだしていますし、ノアの直前でも、その前週(3月21〜23日)の「ダイバージェント」が約5460万ドル、3週前(3月7〜9日)の「300 帝国の進撃」が約4500万ドルです。どう錯覚したら「歴代オープニング記録を塗り替え」なんて妄想できるんでしょう。累積興行収入の方を考えても、公開初週末の後2位、6位、9位で5週目にはトップ10を外れ、公開4週目週末までの累計が9328万ドル、最終的な全米興行収入は1億2000〜3000万ドルと見られているようです。この興行成績は全米年間ランキングでトップ10に入るかどうか微妙、歴代なら300位台と思われます。こけた映画ではないですが、普通にヒットしたくらいの数字でしょう。そういう映画を、「空前の大ヒット」と宣伝する神経は、私にはとても理解できません。広告の世界ではどんな嘘でも平気なんでしょうか。それとも「空前」という言葉の意味がわかってない?日本では公開初週末(2014年6月14〜15日)が14週目の「アナと雪の女王」に及ばす2位で約2億5500万円。日本の歴代オープニング記録はわかりませんけど、近年で「アリス・イン・ワンダーランド」(2013年4月17〜18日)約13億1600万円というのがありますから、歴代記録は夢の彼方、直前の「X−MEN:フューチャー&パスト」(2014年5月31日〜6月1日)の約2億7200万円にも及びません。 
(2014.6.21記)

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