たぶん週1エッセイ◆
映画「MW−ムウ−」

 手塚治虫原作のマンガを映画化した「MW−ムウ−」を見てきました。
 封切り2日目日曜日午前の新宿ミラノ2は2割くらいの入りでした。

 16年前に起こされた、人口600人の沖之真船島住民の虐殺事件。その事実は闇に葬られ、島を離れていた住民には箝口令が敷かれ、それに従った者は破格の出世をしていた。その虐殺から奇跡的に生き延びた2人の少年の1人結城美智雄(玉木宏)は、外資系銀行のエリート銀行員という表の顔の陰で、虐殺事件の際の後遺症で先が長くないと悟り、事実の隠蔽に協力した元島民たちに復讐を図り、もう1人生き延びて神父となった賀来裕太郎(山田孝之)に復讐への助力を強いていく。次々と冷酷な犯行を重ねていく結城に対して、悩みつつも虐殺事件の際に結城に助けられて生き延びたことから逆らえない賀来は、結城の犯行を助けながらそれを阻止しようとするが・・・というお話。

 結城の冷酷さ、賀来の葛藤、警視庁捜査1課の腕利き刑事沢木(石橋凌)の渋み、東京中央新聞の敏腕記者牧野(石田ゆり子)の正義感の組み合わせで見せる映画になっています。
 特に、舞台回し役というか結城に振り回される引き立て役になる沢木の演技が効いていると、私には感じられました。バンコクで日本の刑事が、タクシーの運転手をいきなり引きずり下ろして車を奪って交通ルール完全無視の大暴走のカーチェイスを展開し、公道で拳銃をぶっ放してお咎めなしってことはないでしょうし、東京で犯人の住居を見つけたって言って令状も取らずに単身拳銃を構えて押し入るというのもかなり無理がありますけどね。

 設定で特に疑問に思うのは(全体としてかなり荒唐無稽なんですけど)、沖之真船島の位置と米軍の対応。
 16年前の住民虐殺事件の際と、改めてMW探しに渡った際の2度とも、海に飛び込んで流れ着いて/泳いで助かったということは、本州/関東地方から近いはずですが、そんなところで米軍が秘密兵器の開発をしていた、「危険だからMWを持ち出せなかった」って。センサーに引っかかってすぐ軍事用ヘリが飛んできたように、軍事用ヘリで一っ飛びの距離ならすぐ運び出せるでしょ。
 いくら人質を取っていても、米軍がみすみす結城をMWの保管室に入れてMWを持ち出させる?そもそも人質に取られた案内役の軍人なんてMWのありかさえ知っているか疑問だし、ましてやそこに入れる権限があるとはとても思えない。警備の隊員だってたくさんいるはずですし。なんせ、その秘密を守るために16年前には住民全員を虐殺し、沖之真船島の保管場所に近づいただけで軍事用ヘリで機銃掃射した米軍が、東京の基地内では人質を犠牲にしてでも結城を阻止しないのは何故?

 結城のあまりのスーパーマンぶり・不死身ぶりに、もともと現実感がない上に、結城の冷酷さが強調されるために、住民虐殺事件の黒幕への怒りが今ひとつ感じにくくなっています。結城の復讐の相手が、どちらかといえば周辺部で、住民虐殺を実行した米軍自体は、その米軍基地に侵入しているときですら標的とされないとか、それでいて住民虐殺事件の真相究明に乗り出した記者を米軍のヘリの前に押し出したりするあたり、ちょっとちぐはぐですし。
 キャラクター設定から行くと、沢木が終盤に連続殺人の原点となる住民虐殺事件の真相に気がつき迫るという流れになってもよさそうに思えますが。 

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