たぶん週1エッセイ◆
映画「ル・アーブルの靴みがき」

 移民排斥問題をテーマに裏町の庶民の善意を描いた映画「ル・アーブルの靴みがき」を見てきました。
 上映館を替えながら細々と続く封切り13週目日曜日、2013年5月末閉館予定の銀座テアトルシネマ(150席)午前10時の上映は4〜5割の入り。

 港町ル・アーブルでヴェトナムからの移民の友人とコンビで靴みがきを生業とする老人マルセル(アンドレ・ウィルム)は、妻アルレッティ(カティ・オウティネン)と犬のライカとともに慎ましい生活を送っていた。港に放置されたコンテナで、ロンドンへの密航を目指す途上のアフリカからの密航者たちが見つかり、その一人の少年イドリッサが逃走し、大きく報道され、警察はイドリッサを捜索していた。マルセルは、港で昼食を取っていたときに隠れていたイドリッサと遭遇し、イドリッサを匿うハメになる。アルレッティは、病に倒れ、病院で助かる見込みはないと宣告されるが、医者にマルセルには黙っているように求める。マルセルは退院の日まで病院に来るなという妻をいぶかしく思いながら、近所のパン屋や雑貨屋、飲み屋のママの協力を得て、イドリッサを匿い、ロンドンの母親の元に送ろうと画策する。マルセルがイドリッサを匿っていることに気付いたル・アーブル署のモネ警視(ジャン=ピエール・ダルッサン)は、マルセルを訪れ、非公式に友人として忠告するとして、イドリッサを匿うことをやめるように諭すが・・・というお話。

 港でコンテナに入れられたまま2日間放置されたコンテナから、アフリカからの密航者が発見されたときに、密航者たちの状況やその背景を置いて一人の少年が逃走中であることが大ニュースとして報道され続けるということに、またフランス語を話せるようなエリート階層の少年(父親が教師だとか)が、密航を余儀なくされ、警察と警察に通報する市民たちに追われてフランスの裏町で逃げ隠れし続けねばならないということに、移民排斥問題の根深さとフランス社会の問題を象徴させています。その姿は、現在の日本社会の状況ともダブって見えました。
 それと対照的に、下町の貧しい人々が、逃走中の密航少年を救うために協力する姿を人間の善意の象徴として描いています。貧しいマルセルがイドリッサを匿ったり家族を探したりするだけでなく、それまではマルセルが代金を払わずにいることを非難していたパン屋や雑貨屋がマルセルがイドリッサを匿っていることを知るや積極的にパンや食料品を提供し、といった具合で、このあたりは胸が熱くなります。
 知事からの少年の身柄確保を急げという命令と、人情に挟まれたモネ警視の動き方も見どころになっています。

 イドリッサの行く末とともに、マルセルとアルレッティの老年の夫婦愛がテーマとなっていて、おじさんの観客にはしみじみします。

 予告編で「映画史上最高のハッピーエンド」と謳っています。確かにハッピーエンドですが、観客の予想を裏切りすぎると素直に爽やかな幕切れとは感じにくいというか、シリアスな問題を扱っているだけにこんなにうまく行くはずないでしょという気持ちが先立ってしまいました。

**_**区切り線**_**

 たぶん週1エッセイに戻るたぶん週1エッセイへ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ