たぶん週1エッセイ◆
映画「カイジ」

 人生負け組のフリーターが地下帝国建設をもくろむ大金持ちの仕組んだギャンブルを入口にした罠に巻き込まれて勝負に挑むという映画「カイジ」を見てきました。
 封切り4週目日曜日・映画サービスデーは午前中でも満員でした。

 コンビニでバイトする彼女なしのフリーター青年伊藤開司(藤原竜也)は、以前保証人になった友人が行方をくらまし、30万円の借金が202万円にもなったとヤミ金融の社長(天海祐希)に詰め寄られ、一夜にして借金を返す方法があると言われて、客船「エスポワール」に乗り込むが、それは地下帝国建設のために奴隷労働者をかき集めるための罠であり、勝てば借金はチャラだが負ければ奴隷労働が待っているという勝負が待っていた・・・というお話。
 もちろん、つっこみどころ満載の映画ですが、戯画的ではあるものの現実の社会の一面を捉えていると私は思いますし、エンタメとして見せ場はきちんと押さえていますし、しかも勝負に勝ってシャバに戻ったカイジを待っていたのは甘い生活ではなく元通りの競争社会というラストのメッセージは手堅く、私はお薦めの一本だと思います。
 最初のカードじゃんけんも、カイジと船井(山本太郎)、石田(光石研)の絡みでいきなりスリリングで人間味のあるドラマが展開されます。まぁ、本当に全部あいこを狙うなら最初に4回連続で同じもの(例えばグー)を出させるのが当然でしょ(どれか1つを使い切れば後は絶対裏切れない)とは思いますが、そこで引っかかって学んでいくという設定だし、最初は相手を疑わないところが人間味だから、それでいいんでしょうけど。
 そして、私は、高いところ苦手ですから、見てるのちょっと心臓に悪かったのですが、「ブレイブメンロード」の鉄骨渡りも、かなりスリリングです。さすがにここは、「地下帝国」は秘密裏に進められたとしても、これじゃバレバレでしょ、それに落ちた死体をどう始末するの?って思いますが。
 で、最後の勝負のEカードゲーム。ギリギリする心理戦と圧倒的に奴隷に不利な「皇帝」対「奴隷」の設定での闘い、結果の行方は見え見えとはいえ、魅せてくれます。ギャンブルものとしては、学生の頃に「麻雀放浪記」を読んだときにも似た興奮を味わえました。ちょっと、褒め過ぎかもしれませんが。
 キャラとしても、カイジの快活、熱っぽさ、爽やかさはちょっと置いて、ヤミ金融社長(天海祐希)の醒め具合、地下帝国No.2の利根川(香川照之)のサラリーマン的なあるいは役人的なワルぶり、地下帝国会長(佐藤慶)の大人物のようで最後はせこい姿勢、地下帝国の班長(松尾スズキ)の小ずるさといった悪役側の設定が行き届いている感じです。

 さて、映画の設定の事実関係ですが、まずカイジの背負った借金。これは法的には返す義務はありません。それはカイジが言うようにタダの保証人だからではありません。保証人になったら、友だちに頼まれただけだとか、迷惑かけないって言われたとか言っても、それは通じません。保証人になった以上、借り主と同じ責任を持たされます。しかし、カイジのケースは30万円の借金が1年ちょっとで202万円になったというのですから、明らかに出資法(年29.2%を超える高金利の契約を処罰)違反ですし、これだけの高金利なら利息はもちろん、元本も返す義務はありません(最高裁の判決も出ています)。でも、その法的には払う義務のないヤミ金融からの借金で追い込まれている人が、現実の日本社会に多数いるわけです。この「遠藤金融」の金利、10日で1割と2割の間。映画を見てると冗談みたいですが、実際のヤミ金融は10日で4割、5割も珍しくはないですから、日本社会に現実に存在するヤミ金融よりまだかわいい。もちろん、後で出てくる1分あたり何%という超高金利は、笑うしかありませんけど。それから、借金の方は払う義務はありませんが、ベンツを蹴飛ばしてへこませた方は、修理代を払う義務があります。
 地下帝国の強制労働、これも遠い世界のように感じるかもしれませんが、日本でもタコ部屋といわれるものが、数十年前はゴロゴロしてたわけですし、今だってパスポートを取りあげられた外国人労働者とかがそういう目にあっている例がないとは私は言い切る自信はありません。低所得・不安定の労働者を狙って割高の商品・サービスを売りつける班長のような貧困ビジネスは、それこそそこかしこに現存しています。
 そういうところも含めて、戯画的ではあるものの、この映画の設定は、荒唐無稽には見えないんですよね。

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