たぶん週1エッセイ◆
映画「イントゥ・ザ・ワイルド」
ここがポイント
 なぜアラスカなのかは、結局よくわからない
 最後は判断力不足・準備不足ということになるのだろうが、マジックバスを拠点に周囲を狩猟して回っていたクリスが川の増水に気がつかなかったのは不思議

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 裕福な家庭に生まれ大学を優秀な成績で卒業した青年クリス・マッカンドレスが放浪の果てにアラスカで餓死するまでを描いた青春映画「イントゥ・ザ・ワイルド」を見てきました。
 封切り2週目日曜で朝一番でもわりと客が入っていました。

 クリス(エミール・ハーシュ)は大学卒業とともにアパートを引き払い1人で放浪の旅に出ます。在学中の親からの仕送りでたまった2万4000ドルを慈善団体に寄付し、クレジットカードや持ち金を焼き捨てて、最初はヒッチハイクの旅に出て、その後農場等で働いて金を貯めては次の旅に出て行きます。
 この放浪の動機は、映画の流れとしては父親への反発が強調されています。別居した正妻と離婚できずに母と結ばれてクリスと妹が生まれたけど父(ウィリアム・ハート)と母(マーシャ・ゲイ・ハーデン)の諍いが続き、子どもたちの行動も厳しく抑圧し続けてきた父に、クリスは大学卒業時に、新車を買ってやるという父親に対して新車は要らない、何も要らないと反発し、その後すぐ行方をくらまします。妹(ジェナ・マローン)のナレーションでは、兄が放浪を始めたのは父への反発だけではないと、フォローし、兄は子どもの時から放浪癖があったと述べてはいます。しかし、放浪中に火をたくシーンで、クリスが、子どもの頃にバーベキューの火をつけさせてくれと言ったら父親にダメだと拒否された会話を1人2役で再現しているのを見ると、映画としては父親への反発をかなり重要な要素と位置づけていることが明らかです。大学卒業した後までこだわり続けるかねと思いますが、三つ子の魂百まででしょうか。アラスカに持っていった本がトルストイの「家庭の幸福」というのも・・・
 公式サイトでは「ジブンをぶっこわす旅」とか書いてますから、自分探しの旅ということでもあります。真実の発見という言葉も出てきますが、思想的・宗教的確信はないようです。
 それに加えて、クリスの気の短さも旅の行方に影響しているように思えます。一旦メキシコまで行ってアメリカに舞い戻ったとき、身分証明書の発行を待っていて、(父)ブッシュがイラクへの侵攻をもう待てないと演説するテレビ映像の後、クリスがすぐ部屋を出て貨物列車に潜り込むシーンが象徴的に感じられました。

 父親への反抗から、父親からもらった金をすべて捨てること、父親の援助で得た大学卒業の資格と無縁に肉体労働をして生きることまでは、比較的理解しやすいところです。しかし、それが、アラスカへ、1人の人間の力だけで生きぬくことへとつながるのは、理解できません。人の憧れや思い込みは他人が理解できないことは少なくありませんが。結局、なぜアラスカなのか、荒野なのかは映画を見てもよくわかりませんでした。

 クリスはアラスカに行って、荒野にうち捨てられたバス(クリスは「マジックバス」と名付けます。字幕は「不思議なバス」)を見つけ、そこで3ヵ月あまりを過ごします。魚を捕り、獣を撃ち、木の実を取って生活しながら、日記を綴り、持ってきた本を読み続けます。そのうちに幸福が実現するのはそれを誰かと分かち合えたときと悟り、9週目に戻ろうとしますが、来るときには渡れた川が増水していて渡れず、またマジックバスに戻ります。その後間違って毒草を食べてしまい体力を失い、ついにはバスの中で餓死してしまいます。
 アラスカに行ったのは春先で雪深かったわけで、それから夏になって雪が溶ければ川が増水するのは当然ですし、野草を取って喰うからには、しかも医者もいないし薬もないのだから毒草に気をつけるのは当然です。毒草を食べてしまったのも、川の増水を予想できなかったのも判断力不足、準備不足というしかありません。クリス自身、食べられる草と食べられない草の図鑑を持ち歩いていたわけですから、気にはしていたわけですが。
 それにしても、ラストで上空からの映像を見ると、マジックバスは川から本当にすぐの丘の上にあります。マジックバスを拠点に周囲を狩猟して回っていたクリスが川の増水に気がつかなかったのは不思議ですね。

 クリスが餓死に至るシーンを際だたせるため、上半身裸のシーンが多数登場します。たくましかった体がやせ衰えていく映像は鬼気迫るものがあります(公式サイトの説明では、撮影中に18kg落としたそうです)。ただ上半身裸で荒野を歩き回っていてかすり傷1つないのはちょっと・・・。

(2008.9.14記)

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