たぶん週1エッセイ◆
映画「はやぶさ/HAYABUSA」
ここがポイント
 映画紹介的には竹内結子・西田敏行主演だが、実はプロジェクトマネージャー川渕の物語に思える
 JAXAの広報映画的な側面も感じられ、よいしょが目につく

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 2010年6月、7年間、60億kmの宇宙の旅を経て小惑星イトカワから微粒子資料を持ち帰った無人探査機はやぶさのプロジェクトに関わった人々を描いた映画「はやぶさ/HAYABUSA」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、新宿ピカデリーの午前9時40分の上映は7割くらいの入り。

 幼い頃の兄の夢を引き継いで惑星研究を志したが研究者になれずに書店でアルバイトを続けていた水沢恵(竹内結子)は、惑星探査をめぐる宇宙科学研究所対外協力室長的場(西田敏行)の講演を聴き、感動してマニアックな質問をしたことをきっかけに、相模原の宇宙科学研究所で対外協力室兼サイエンスマネージャー直属で様々なチームの手伝いをするようになって、無人探査機はやぶさのプロジェクトに関わることになった。はやぶさは低予算のため極限までの軽さと電気による運行(燃料がほとんど積めないため)、自律性など困難な課題を多数抱え、開発が難航していた。部品の開発が間に合わないために打ち上げが延期され、予算の延長や打ち上げをめぐる漁協の説得(打ち上げ時には周辺の漁業が停止されるため)を経て、2003年5月9日、はやぶさは打ち上げられた。当初は順調に運行していたはやぶさも、部品の故障や、燃料漏れ、エンジンの停止など数々のトラブルに見舞われて、最大のミッションのサンプル採取にもいったん失敗し、2度目の採取もサンプルが採取できたという確信を持てぬまま帰路に就き、姿勢(太陽光発電パネルの方向)が維持できなくなって通信が途絶えてしまう。これまで通信が途絶した探査機の再発見の例はなく絶望視される中、プロジェクトマネージャーの川渕(佐野史郎)は最大限の努力を続ければ1年以内に通信が回復する可能性は6割あるとスタッフを鼓舞するが・・・というお話。

 唯一の架空の人物(と思われる)水沢恵の視点で語られ(そのため水沢はあらゆるチームの手伝いとしてあらゆる場面に立ち会っている)、映画紹介的には竹内結子・西田敏行主演なんですが、私の目には、文科省からは予算打ち切りを常にちらつかされるのをのらりくらりとかわし、各チームの利害が対立した時やトラブル時にはその場で判断を迫られて苦悩を見せながらも基本的には淡々とその場を仕切っていくプロジェクトマネージャー川渕の物語に思えました。
 トラブル時の復活のために部品1つだけ積ませてくれと迫り拒絶されながら、こっそりメーカーに頼み込んで載せてもらってたエンジン担当チーフ(鶴見辰吾)のとぼけた味とか、ポケットに挿した定規を使って食堂でホッケの骨を外してそのまままたポケットに挿すカメラ担当チーフ(高嶋政宏)とかのキャラもそれなりに楽しめますが。プロジェクトには関係ない引きこもりのはやぶさファンのおっちゃん(生瀬勝久)とか、濃いキャラが多すぎるきらいもありますが・・・
 全体としては、プロジェクトに多数の人々が関わり、途中で去らざるを得なかったり見届けることなく亡くなったり、そういう多くの人々の熱意と希望と創意と妥協の中でプロジェクトが進んでいく、群像劇になっています。

 実話であり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の全面協力なしには映画化不可能なテーマですから、JAXAの広報映画的な側面も感じられます。公式サイトで書かれている「月以外の天体からサンプルを採取して持ち帰るという、NASAでさえ成し得なかったミッション」とかも、そう書けばそうなんですが、マスコミが無理無理に条件をつけてでも「初めて」と書きたがるような印象を受けてしまいます。無人探査機によるサンプルリターンは、1970年にソ連がルナ16号で月から土を持ち帰っていたのにその時はほとんど評価されず、2006年にはNASAがヴィルト第2彗星の噴出物を持ち帰っていますから、「月以外の天体」に、「着陸して」あるいは「数メートル圏まで近接して」サンプルを持ち帰るという条件をつければ、人類初めてで、またNASAにも成し得なかったことになります。でも、あえてそういう条件をつけなくても、プロジェクトの困難性を素直に見ればいいと私は思ってしまいます。

(2011.10.16記)

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