庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「ゲゲゲの女房」
ここがポイント
 レトロな調子の映像と、無言のカットによる心象風景描写が印象に残る
 貧しさの中で、まっすぐにまじめに明るく生き抜く、そういった生き様を、ノスタルジックに描いている

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 漫画家水木しげるの妻の自伝エッセイを映画化した「ゲゲゲの女房」を見てきました。
 封切り2日目日曜、初日には監督と主演女優の舞台挨拶のあったパルコ調布キネマの翌日午前10時20分の上映は3割くらいの入り。観客層は中高年が多数派。

 安来の酒屋の娘武良布枝(吹石一恵)は29歳の時、見合いで戦争で左腕を失い恩給で安定した生活を送る10歳年上の境港出身の貸本漫画家と聞いた武良しげる(宮藤官九郎)と見合い後5日で結婚し、東京の武良の家に嫁ぐ。しかし、しげるは恩給は実家の両親が受け取り、米びつに米はなく、米屋からは支払を督促され、家具の多くは質入れされ、2階はやはり貧乏な元漫画家の絵描き金内(村上淳)に貸している状態だった。出版社からは妖怪の漫画は暗くて売れないと言われて原稿料も約束通りには払われず、貧乏生活に驚いた布枝は、姉(坂井真紀)の誘いもあり、不満や迷いを持つが・・・というお話。

 レトロな調子の映像と、無言のカットによる心象風景描写が印象に残る作品です。台詞は少なめで、その分叙情的です。
 結婚後すぐの布枝の姿を、どこかぎこちなく家事をする姿の長めのカットで表現しています。新妻の初々しさの描写という狙いでしょうし、映像としてはありだと思いますが、すぐ前で29歳になるまで子どもの多い家を仕切ってきた布枝を描いているので、家事は手慣れたはずなのになぜと、違和感を持ちました。

 周囲では餓死する者も出るような貧しさの中で、まっすぐにまじめに明るく生き抜く、そういった生き様を、ノスタルジックに描いています。しかし、当人にとっては「古き良き日本」としても、むしろ現在の日本でまた、ワーキング・プアや失業者が続出していることを考えれば、ノスタルジーと受け取りにくくもあります。
 高度経済成長の始まった1960年代前半の設定ですが、東京駅では高層ビルや明らかに今のクレーンが映り込むのをはじめ、時代考証に疑問を感じさせる場面も少なからずあります。これも、これからにも通じると読めば、そこは目をつむるべきなのでしょう。

 でも、そういう夫婦関係や生き様を、まっすぐに描いた、あるいは叙情的な作風と、多用される妖怪の登場、特に着ぐるみの妖怪はマッチしない感じがしました。前日「さらば愛しの大統領」を見たため、連日吹石一恵が着ぐるみと戯れる姿を見てしまい、イメージがかぶってちょっと勘弁して欲しいと思いました。
 あと、左腕を失ったしげる役の宮藤官九郎が左腕をシャツの中で吊っているのが、時々シャツ越しに腕の形が浮き出してはっきりわかるのが興ざめ。そういうところはもう少し丁寧に作って欲しかったと思います。

(2010.11.21記)

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