庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
福島原発の原子炉で何が起こっているのか
 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)発生後、福島第一原子力発電所での事故の進展をやはり原発震災は起こってしまったのページの更新でフォローしてきましたが、事態の進展と時間の経過で記事が長くなりすぎていますので、現時点で考えられることをここでまとめておきたいと思います。

炉心溶融がおきた
 事故の初期の段階では、3月12日の1号機の建屋の爆発、3月14日の3号機の建屋の爆発、3月15日の2号機の圧力抑制室の爆発、さらには4号機の建屋の爆発が、他に爆発の原因が考えがたいことから燃料被覆管のジルコニウムと水の反応で発生した水素の爆発と考えられ、そうである以上燃料が損傷していると考えるしかないという理由から、炉心溶融の疑いがあると考えられていました。
 また、3月16日以降保安院のサイトで公表されてきた(データの公表状況については福島原発の炉心はどうなっているのかを読んでください)格納容器内の放射線量率の異常な高さからも炉心溶融と原子炉内の放射性物質の圧力容器外へ(格納容器内へ)の漏洩が強く疑われていました。(一般に公表された3月16日以降のデータでも3号機では3月18日午後2時で1時間あたり105Sv、2号機でも3月16日午後2時で1時間あたり93.8Sv、1号機でも3月23日午前9時には1時間あたり48.8Svというとんでもない数値でした。東京電力は、4月6日、一般には公表していなかった3月14日、15日の放射線量率について、1号機では3月14日に1時間あたり160Sv、2号機で3月15日に1時間あたり138Svを観測したことを根拠に、1号機では最大で炉心の70%、2号機では最大30%、3号機では最大25%が損傷したという試算を発表しています。その後マスコミに配布されるようになった格納容器内の放射線量率のデータを見ると、最大値は1号機が3月14日午前7時に1時間あたり162Sv(注:東京電力がマスコミに配布した一覧表では3月14日午後3時が「948Sv」となっていますが、これはいくらなんでも「94.8Sv」だろうと読んでおきます)、2号機が3月15日午後4時10分に1時間あたり138Sv、3号機が3月14日午前7時に167Svとなっています。このデータが根拠だとすれば、3号機でも相当炉心が損傷していることになるはずですが)

 しかし、3月24日、3号機のタービン建屋地下の浸水で作業員が被曝して放射線やけど状態となったことからその水が分析され、極めて高濃度の放射性物質が検出されました。そこで慌てて他の建屋の浸水も分析してみたところ、1号機のタービン建屋地下の水からもやはり高濃度の放射性物質が検出されました。さらに3月28日には敷地内の土壌(採取は3月21日及び22日)からプルトニウムが検出され、タービン建屋内だけでなくタービン建屋から外につながる坑道(トレンチ)内の水も高い放射線レベルであることが発表されました。
 これらの事情から、原子炉内で炉心溶融が起きていたことがほぼ確実になりました。何故かと言えば、検出された放射性物質にヨウ素131と金属元素が多く含まれているからです。こういうことを言うと何か専門的な難しいことのように聞こえるでしょうが、全然難しい話ではありません。放射性物質は、通常の放射性物質でない元素と化学的な性質は変わりません。元素の性質は原子核中の陽子の数で決まり、放射性物質は、放射性でない物質と中性子の数(や電子の状態)が違うだけで、中性子の数はその物質の化学的性質には影響を与えません。核燃料は、ペレット状に焼き固められていますので、核燃料が高温になって溶け出さない限り、固体状の元素、例えば金属元素は、大半が燃料内にとどまっています。燃料被覆管が破損しただけで核燃料が溶けていない段階では、気体状の物質、例えば希ガス類(キセノンとかクリプトンとか)やヨウ素などは大量に放出されますが、金属元素はほとんど放出されません。ところが、3号機のタービン建屋地下の水からは金属元素のテクネチウム99mやランタン140が非常に高濃度で検出されました。またプルトニウムが検出されたことも同じ理由から炉心溶融があったことを示しています。そして、3号機のタービン建屋地下の水からは、同時にヨウ素131が非常に高濃度で検出されています。ヨウ素131は半減期が8日間と短いので、これが大量に検出されるということは使用済み燃料プールの燃料ではなく炉心の核燃料が溶融していることを意味しています(使用済み燃料プールの核燃料も同時に溶融していることを否定できるわけではないですが)。というのは、4号機の使用済み燃料プールの核燃料は少なくとも取り出してから3か月経っていますし、3号機(1号機、2号機も同様)の使用済み燃料プールの核燃料はそれ以上経っていますから、これらの使用済み燃料プールの核燃料は(臨界事故が起こったのでない限りは)3か月以上核分裂反応がないわけですのでヨウ素131はほとんどなくなっていて、この核燃料が溶融してもヨウ素131はほとんど出てこないからです。
 これらの事情から、今では、少なくとも1号機から3号機の原子炉のいずれかで炉心溶融が起こったことがほぼ確実となっています。
 現在のデータから炉心の状態をどう考えるべきかについては福島原発の炉心はどうなっているのかを読んでください。

炉心の放射性物質が外部に漏洩している
 これまでに発表された、原発正門等でのモニタリングデータでの1時間あたりの放射線被曝線量値やSPEEDIでの3月12日から24日までのヨウ素の被曝評価から見ても、尋常でないレベルの放射性物質が外部に放出されていることが明らかでした。
 しかし、3号機や1号機のタービン建屋地下や坑道の水からの放射性物質の検出は、より端的に炉心の放射性物質が大量に漏洩し、原発推進派の人々が言ってきた、そして今でもマスコミでは「まだ安心」と言っている閉じ込め機能がほぼ機能していないことを示しています。
 本来、原子炉内の水が(原子炉建屋内、格納容器内ならさておき)、タービン建屋に漏洩するということはおよそあってはならないことです。沸騰水型原発では、通常運転時は、原子炉内で発生させた蒸気を主蒸気管を経由してタービン建屋に送り、タービンを回した後、復水器で(細い電熱管越しに海水で冷却して)水にして(給水加熱器で加熱した上で)給水管を経由して原子炉圧力容器に戻すという循環をさせています。また通常運転時は、主蒸気管の枝管から一部の蒸気を給水加熱用に給水加熱器に送ったり、蒸気駆動のポンプの駆動用に送ったりしていますし、原子炉停止時はタービンへ行かなくなった蒸気をタービンバイパス系という経路で復水器に送ってやはり給水管から原子炉圧力容器に戻しています。その意味で、通常運転時は原子炉で発生させた蒸気をいろいろな経路でタービン建屋に送っています。しかし、今回のような「外部電源喪失」が起こった場合は、主蒸気隔離弁というものが自動的に閉鎖して格納容器のラインで蒸気の流出を止める設計になっています。その場合、原子炉の蒸気は圧力容器の圧力が高まると逃がし安全弁が開いてサプレッションプールに送られ、隔離時冷却系が作動するとその系統からサプレッションプールに送られて、サプレッションプールで冷却されて水に戻され、隔離時冷却系や残留熱除去系を通じて原子炉圧力容器に戻されるという格納容器内での循環に切り替えられる設計です。そして、通常運転時に原子炉からの蒸気が送られるタービン建屋内の配管や弁は炉心からの蒸気が通る系統ですから、耐震設計上も高度の耐震安全性が要求されています(最初のバージョンで「最高度」に分類したのは私の勘違いでした)。
 今回、少なくとも3号機と1号機で検出されたタービン建屋地下での汚染水は、炉心の水が漏洩したものと判断されますが、その漏洩経路としては、原子炉からタービン建屋に通じる配管を通った蒸気がタービン建屋内で漏洩したと考えるのが現実的だと私は考えています。そうすると、ここで、第一に外部電源喪失が起こったのに主蒸気隔離弁が閉鎖しなかった(少なくとも完全には閉鎖しなかった)、第二に地震でタービン建屋内の原子炉からの蒸気が通る系統の配管か弁が破損したという2つの「あってはならないこと」(原発推進派や国が起こりえないと言ってきたこと)がどちらも起こったということになります。
 そして、そうである以上、今でも原子炉内に注水された水が炉心溶融した燃料で気化された蒸気、つまり極めて高濃度の放射性物質を含む蒸気がタービン建屋に送られたあげく破損した配管か弁からタービン建屋内に漏洩し続けているということになります。そして、タービン建屋には、原発推進派やマスコミが「安心」という材料の格納容器もフィルターもありません。
 もっとも、原子炉内の水がタービン建屋に漏洩する経路は、蒸気系の配管だけではありません。原子炉内の水が圧力容器自体が破損したり圧力容器につながる配管が破損するなどして圧力容器から漏洩して格納容器内にたまり、格納容器(サプレッションチェンバーも含む)から、格納容器自体に穴が開いたり、シール部が破損したり、電線管やドレン(排水)配管、さらにはダクト(換気用配管)等の配管を通じて漏洩水がさらに外部に漏洩するということも考えられます。私は、蒸気系配管経由の方が現実的と考えていますが、注水が水のままで漏洩しているとすればそう考えるしかないかなということにもなります。原子炉に送り込んだ注水がほぼそのままの流量でタービン建屋経由で坑道から海に流れていたという話も聞こえてきますので、そうであればこの圧力容器から格納容器内に漏洩した水が破損部や配管から格納容器外に漏洩してタービン建屋に漏洩したと考えた方がよさそうです。
 その場合でも、同じ経路で現在も原子炉から極めて高濃度の放射性物質を含む水が水のままの状態で漏洩を続けているということになります。

冷却は賽の河原の石積み
 一部のマスコミが、外部電源が復帰すれば事故が収束するかのような幻想を振りまいていましたが、すべての原子炉で外部電源が復活し、中央制御室の電灯が点くまでには至った今も、事故の収束の見通しはまったくありません。
 原子炉の冷却は、本来用意されている冷却系統、例えば残留熱除去系が復活して、原子炉圧力容器からの蒸気をサプレッションプール、残留熱除去系ポンプ経由で圧力容器に戻すという「循環」が回復し、かつその循環の過程で圧力容器に戻す水を冷却する系統(基本的には海水ポンプで海水を取り入れてその海水で熱交換器で電熱管越しに冷却する)を回復するということにならない限り安定的な冷却はできません。一部のマスコミが、海水を取り入れて熱交換器を冷却するためのポンプの仮設の作業が始まったことを、安定した冷却への一歩と報じていましたが、熱交換器を冷却するポンプが動くようになっても、原子炉から出てくる蒸気か高温水がその熱交換器まで漏洩することなく送られてきて、熱交換器で冷却されたあと水がまた漏洩することなく原子炉に戻されるようになるのでなければ、この「循環」が回復することにはなりません。
 今福島第一原発で行われていることは、冷却水の循環ではなく、どこかからくんできた水を一方的に原子炉圧力容器内に注水し、その注水された水は、おそらくは原子炉の高熱で蒸気になって圧力容器外に漏洩し、あるいは水のままでどこかから圧力容器外に漏洩し、漏洩した水は格納容器内か、格納容器外か、タービン建屋・坑道か、果てまた建屋外かどこかへ消えて行っているという状態です。この状態では、炉心の発熱が治まるまで長期間にわたり間断なくどこかから水をくんできて注水を続けるということを続けなければなりません。まさしく砂漠に水をまくような行為で、賽の河原の石積みやシジフォスの神話の世界です。
 さて、一体いつまでどれだけ水を注ぎ続ける必要があるのでしょうか。簡単な試算をしてみましょう。炉心の崩壊熱は、古いデータですが1975年の国の安全審査指針で用いられた式を元に京都大学原子炉実験所の小出裕章先生が計算した数値によれば、100万キロワットの原子炉の停止後2週間で7372kW、1か月で5940kW、2か月で4880kW、3か月で4351kW、6か月で3575kW、1年で2453kWだそうです。1号機は46万キロワット、2号機と3号機は78万4000キロワットですから、これを比例計算すると、炉心の1時間あたりの発熱量を計算することができます。これを計算しやすいように単位をkcal/hに変換(1kW=860kcal/h)すると、例えば2号機と3号機は2週間後(3月25日)なら約479万kcal/hになります。1か月後(4月11日)なら約400万kcal/h、2か月後(5月11日)なら約329万kcal/h、3か月後(6月11日)なら約293万kcal/h、6か月後(9月11日)なら約241万kcal/h、1年後(2012年3月11日)なら約165万kcal/hということになります。他方、常温(一応20℃で計算します)の水1リットルが炉心の燃料から奪える熱量は、圧力容器内の圧力によって少し変わりますが、最大で概ね620kcalとなります(1気圧の場合、20℃から100℃に上昇する過程で約80kcal、気化熱で約539kcal。なお、例えば5気圧の場合は20℃から沸点の151℃に上昇する過程で約132kcal、気化熱で約504kcal)。これは注水が全量沸騰して蒸気に変わった場合で、水のまま漏洩する場合はほとんど熱を奪えません。つまり注水が全部炉心に接触して全部蒸気になるという一番いい条件でも、炉心の発熱量と均衡して炉心の温度をそれ以上上げないための最低注水量は、2週間後(3月25日)で毎時7.7立方メートル(毎分129リットル)、1か月後(4月11日)で毎時6.5立方メートル(毎分108リットル)、2か月後(5月11日)で毎時5.3立方メートル(毎分88リットル)、3か月後(6月11日)で毎時4.7立方メートル(毎分79リットル)、6か月後(9月11日)で毎時3.9立方メートル(毎分65リットル)、1年後(2012年3月11日)で毎時2.7立方メートル(毎分44リットル)ということになります。最低限これだけの注水を続けないと、どこかで手を緩めると、炉心の温度が上昇し始めるのです。
 3月28日ないし3月29日朝の注水量は、1号機が毎分133リットル、2号機が毎分107リットル、3号機が毎分200リットルでした(保安院発表第61報:3月29日午後6時ころ発表)。この数値を見ると、2号機は、注水全量が炉心に接触して全量蒸発してもなお、現在の崩壊熱に足りない状態です。現に3月29日になって2号機は圧力容器温度が上昇に転じています。3月29日朝ないし3月30日朝の注水量は、1号機と2号機が毎分133リットル、3号機が毎分116リットルになっています(保安院発表第63報:3月30日午後7時ころ発表)。2号機の圧力容器温度上昇を見て2号機の注水量を増やしていますが、3月30日午後1時の段階では2号機の圧力容器温度(給水ノズル部)は上昇が続いています(2号機の圧力容器下部温度は3月30日午後1時は「計器不良」となり数値発表がなくなりました)。他方、3号機の方は注水量が減らされ、注水全量が炉心に接触して全量蒸発しても現在の崩壊熱に足りるか心もとない状態です。この注水量は、4月3日午後0時18分から注水用仮設電動ポンプの電源が電源車から外部電源に切り替えられた後1号機が毎時6立方メートル(毎分100リットル)、2号機が毎時8立方メートル(毎分166リットル)、3号機が毎時7立方メートル(毎分116リットル)と発表されています。その後2号機については4月7日午後7時の数値で毎時7立方メートル(毎分116リットル)に落とされています。
 そして、一応ここでした計算上の注水量は足りている原子炉でも、もし一部で言われているように圧力容器にどこか穴が開いていて、注水の一部が蒸発せずに水のままで圧力容器から漏洩していたら、やはり注水量が足りないということにもなりかねません。
 現在の注水は、このようにシステムとしての安定はまったく図られていない上に、注水量さえ危ない状態です。しかもここまでは危機対応でかなり無理をして続けてきて今このような状態なのです。果たしてこのあと何か月もこういう賽の河原の石積みのような作業を、油断なく続けられるでしょうか。原発推進派やマスコミの論調とは逆に、作業員が疲弊し、世間の関心が薄まるこれからこそ、炉心の冷却作業の失敗の危険性が高まるのではないかと危惧します。

(2011年3月30日記、同日更新、4月7日更新、4月8日更新、4月9日更新)

 すみません。最近の状況をフォローできていません。いずれ更新しようとは思うのですが、今はこの問題より、全交流電源喪失の原因問題の方に力を入れています。↓
 福島原発全交流電源喪失は津波が原因か

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