庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その6)
ここがポイント
 東京電力は、津波が電源喪失の原因ならなぜ津波は3号機→2号機→1号機の順に到達したのに、電源喪失は1号機、2号機、3号機の順なのかの説明に苦しみ、2017年12月25日に新たな報告書を出したが、結局何も説明できなかった。
 3号機の電源喪失が津波によると考えると、やはり1号機と2号機A系の電源喪失は津波到達前と見るのが素直。
 東京電力は、福島第一原発事故について、2012年6月20日付で(最終)報告書を発表しましたが、その後2013年12月13日に、「福島第一原子力発電所 1〜3 号機の炉心・格納容器の状態の推定と未解明問題に関する検討」と題して「第1回進捗報告」を発表し、ときどき「進捗報告」を発表してきました。それも2015年12月17日の第4回進捗報告から2年も音沙汰なしなのでもう尽きたかと思っていましたところ、2017年12月25日に「第5回進捗報告」が発表され(全体はこちらで入手できます)、その中で、第1回進捗報告以来たいへん久しぶり(4年ぶり)に、電源喪失の原因が津波だという新たな報告がありました(その報告書はこちら)。
 
 福島第一原発事故では6号機以外のすべてで非常用電源が機能喪失しましたが、そのうち少なくとも1号機の電源喪失は津波の敷地到達前に生じたものであり、従ってその原因は津波ではあり得ないことについて、国会事故調の報告書(参考資料)で論じ(現在はこちらで入手できます。61〜82ページがこの問題に関する記述です)、その後雑誌「科学」(岩波書店)で発表し(そのうち電子版で公開されているものはこちらで読めます)、このサイトで何度か論じてきました(最新のものとして「福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その5)」)。
 この問題は、福島原発事故の原因が十分解明できたのか、また事故原因をこれ以上解明しなくても津波対策さえすれば(また電源を増やしさえすれば)再稼働できるのかに関わります。そのため東電と原発推進勢力は躍起になってこの問題提起を潰そうとしてきましたし、福島原発事故原因の解明を求め続ける新潟県技術委員会では今なおこの問題が採り上げられ続けているのです。

 1号機の敷地への津波到達と1号機の非常用電源喪失の前後関係というピンポイントの議論の他に、東電の「すべてが津波による」という主張には、津波が原因なら、津波の敷地への到達は3号機→2号機→1号機の順なのに、電源喪失は1号機、2号機、3号機の順なのは何故なのかという弱みがあります。今回の報告書は、その問題への言い訳を主眼としたものと考えられます。

1.津波の敷地への到着の順序:津波の進行方向
 ところが、その報告書で、東電は、最初から、津波が1号機、2号機、3号機の敷地に同時に到達したという、事実とは異なる前提をとって、問題を根本からごまかそうとしています。
 「津波の敷地への到達は3号機→2号機→1号機の順なのに、電源喪失は1号機、2号機、3号機の順なのは何故なのか」という問題を、その前提がないかのように「津波が1号機、2号機、3号機に同時に到達したのに電源喪失は1号機、2号機、3号機の順なのは何故なのか」という問題にすり替えているのです。

 最初に、津波の敷地への到着の順序、言い換えれば津波の進行方向を、動かぬ証拠で確認しましょう。
 福島第一原発を襲った津波については、4号機の南側にある廃棄物集中処理施設内から撮影した一連の写真が残されています。その一連の写真の15枚目と16枚目がポイントです。この写真に写っている大津波が1号機敷地に遡上したことについては、東電と私の意見が一致しています。
 まずは写真そのものを見てみます。


 写真15と写真16は撮影間隔が15秒ですが、この間に写真の視野の中で津波の先端が右側から左側に大きく移動していることがわかります。津波全体としては東から西へ、写真でいえば奥(沖)から手前へと進行しているのですが、写真でいえば右手前にある防波堤(南防波堤)と防波堤周辺の海底地形などの影響によって、津波の進行方向が変化し、防波堤内では進行方向が斜めに(写真では右から左に)変わっているのです。


 これを図示すると次のようになります。
 このように、原発のタービン建屋(原子炉建屋も)がある敷地部分(高さは基準海面+10m)に遡上した大津波は、真東からではなく、防波堤内では南東方向から進行し、南側の3号機、2号機、1号機の順に到達したことが、写真から明らかです。

 東京電力は、新たな報告書で、次のように説明しています。
 実際の津波の進行方向をまったく無視して、津波が真東から到達したかのように図示し「津波の最大波は敷地全体に大きな時間差なく到達したと想定」と記述しています。この記述は、文句を言われたら「大きな時間差なく」と言っている、まったく同時とは言っていないと言い抜けるためのものですが、赤線で引いた「基準位置」がすべてを物語っています。
 この報告書のポイントは、津波の非常用電源機器までの「経路長」と電源喪失時刻が相関するということを示すことで全体として津波によるものと考えることが確からしいと論じることにあります。「経路長」と「電源喪失時刻」の相関を見る以上、基準位置における津波到達が同時刻(「経路」を進行する津波のスタートが同じ)でなければそもそも論が立ちません。ここですでに東電は、津波が1号機から4号機まで「同時に」到達したということを議論の前提に滑り込ませているのです。
 東電の新たな報告書は、まず最初の前提からして、事実に反するもので、議論の基礎から崩れています。
2.1号機に津波が到達する頃には3号機非常用ディーゼル室は水没しているはず
 東電は、1号機ではタービン建屋の大物搬入口が開いていたと主張し、だから津波が簡単に侵入して、タービン建屋1階の高圧電源盤(M/C)で短絡が起こるような高さまで一気に津波が押し寄せたと主張しています。
(下図で「D/G1A」と記載されているのは、1号機非常用ディーゼル発電機A系ということです。非常用電源や非常用冷却系等の事故対応機器は、各号機に通常は2系統設けられていて、「A系」「B系」と呼ばれています。「A系」と「B系」は区別のために呼び名がつけられているだけで、優劣はありません。この記事で「A系」「B系」の記載をしていないところはA系B系ともということと理解してください。なお、M/C1Cは1号機の非常用高圧電源盤C系で、非常用ディーゼル発電機A系で発電した電気をA系の各機器に供給しています。同じくM/C1Dは非常用ディーゼル発電機B系で発電した電気をB系の各機器に供給しています、なぜ「C系」「D系」かというと、事故時でないときに使用されている「常用」電源盤に「A系」「B系」の名が割り振られているからです)
 しかし、それを言うのであれば、1号機の敷地に津波が到達するよりも前に3号機の敷地に津波が到達していることは明らかです。
 3号機の敷地に津波が到達すると何が起こるでしょうか。3号機のタービン建屋の北側の壁には非常用ディーゼル発電機への給排気用の大きな開口部があり、そこに「ルーバ」と呼ばれる、窓にかける「ブラインド」を採光モードで開いている状態のような薄板が並んでいます。ルーバは水(津波)が通るには何らの障害にもなりません。そしてそのルーバの内側の1階床は地下の非常用ディーゼル発電機の給排気用に大きな開口部があり、要するにルーバのある開口部と地下の非常用ディーゼル発電機室は素通し・直結しています。つまり、3号機の敷地に津波が到達すると、津波は壁の大きな開口部から地下の非常用ディーゼル室に直接流れ込み、非常用ディーゼル発電機室は速やかに水没するはずです。今回の報告書で、東電も3号機では津波がルーバからまっすぐ地下の非常用ディーゼル発電機室に浸水することを認めています(下図)。
 それなのに、東電は、この報告書で、1号機のタービン建屋に津波が到達する前に3号機では非常用ディーゼル発電機室が水没することはもちろんのこと、時期を別にしても3号機の非常用ディーゼル発電機室が水没することによる非常用ディーゼル発電機への影響については、まったく検討を加えていません。文字通りひと言もそこには触れていません(非常用ディーゼル発電機室:非常用ディーゼル発電機本体への浸水・水没には言及しないで、3号機A系については別ルートで「吸気サイレンサー」に浸水して「徐々に」停止するモードだけを検討しています。「徐々」でない停止モードには触れたくないのでしょう)。
 1号機に加えて、2号機、5号機でも、建屋への津波浸水イメージという図を書いているのに、3号機ではそのイメージ図を掲載していません。

 3号機の非常用ディーゼル発電機室への浸水・水没をイメージされるのがよほど嫌なのでしょうか。非常用電源の機能喪失の時刻というか順番と津波到達の(基準位置からの「経路長」の)整合性を論ずる報告書で、3号機では早い時間帯に起きたはずの非常用ディーゼル発電機室への浸水・水没の影響を論じない、そこには目を向けさせまいとするのでは、それは公正さを欠くというレベルでさえなく、そもそも論証というに値しないというべきでしょう

3.説明できないことは「海水ポンプの停止」によることに:それでも矛盾してるだけ
 非常用電源の喪失時刻を、基準位置と非常用電源機器の「経路長」と相関させて整合性を論証するもくろみだった報告書で、東電は、それが破綻すると(先に述べたように、そもそも津波の進行方向=到達の順番をごまかし、3号機での非常用ディーゼル発電機室への浸水・水没の影響を検討から外している点で、全体として破綻していて、1つも論証になっていないのですが、そういった東電が目を背けた点を度外視したとしても、それでもどうしようもなくなると、ということ)電源盤や非常用ディーゼル発電機ではなく、海側の低い場所(基準海面+4mの高さの敷地)にあり、基準海面+5.6mまでしか耐えられない海水ポンプが津波による被水・水没で停止し、その停止信号で非常用ディーゼル発電機が停止したということにしています。2号機A系と3号機B系はそれが原因だと言い出しました。
 2号機A系は、3号機B系よりも1分50秒程度早く機能喪失しました。2号機A系の海水ポンプが停止すると60秒後に非常用ディーゼル発電機停止信号が出るように設定されています。3号機B系では海水ポンプ停止後10秒で非常用ディーゼル発電機停止信号が出るように設定されています。そうすると、これを整合的に説明するためには、2号機A系の海水ポンプは、3号機B系の海水ポンプよりも2分40秒程度早く停止したということでなければなりません。もう一度位置関係の説明図を示しますが、3号機B系の海水ポンプの方が、2号機A系の海水ポンプよりも先に津波で水没するのです。
 水がかかったレベルならば、海水ポンプが停止に至るかどうか、それにかかる時間はケース・バイ・ケースでしょう。しかし、津波で水没してしまえば、海水ポンプはほぼ瞬時に停止すると考えられます。東電の主張を正当化するためには、3号機B系の海水ポンプは、水没後、相対的に見て、2号機A系の海水ポンプよりも3分程度以上も長く停止せずに健全に動き続けなければなりません。そんなことがあり得るでしょうか。

4.まとめ:やはり1号機の電源喪失は津波が原因ではない
 このように、東電は、どんなに頑張っても、1号機と2号機(A系)の電源喪失が3号機の電源喪失よりも早く生じた理由を説明できません。3号機の電源喪失が津波によるとすると、それより前に電源喪失した1号機と2号機(A系:2号機のB系は3号機より後に電源喪失しています)は、まだ津波が敷地に到達せず、津波の影響が及ばない時点で電源喪失したと考えるのが素直でしょう。

 東電の新たな報告書は、目論んだことをまったく論証できておらず、私には、東電がただ自分の首を絞めただけに思えます。
  はてなブックマークに追加  福島原発全交流電源喪失は津波が原因か(その6) | 庶民の弁護士
(2017.12.30記、31更新)

**_**区切り線**_**

 

 たぶん週1エッセイに戻る  原発訴訟に戻る

トップページに戻る  サイトマップ