庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「フィクサー」
ここがポイント
 主要な登場人物3人が、それぞれ弁護士として悩む姿に、同業者としては、それだけでいろいろ感じる
 ジョージ・クルーニーの顔の演技と息子のかわいさで、映像的にも楽しめる

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 ジョージ・クルーニー主演の「フィクサー」を見てきました。土曜日の午後だったこともあり、満員・立ち見ありの盛況でした。

 製薬会社が危険な農薬を販売して農民が死んで集団訴訟を起こされている、その製薬会社側の弁護士が、トム・ウィルキンソン演じるアーサー。これが同業者としては(私はあちら側に立つことはあり得ませんけど)、切ない。
 6年間(人生の12%と言ってましたけど・・・)この訴訟にかかりきりになって、精根尽き果てたか躁鬱病になり、薬でなんとかごまかして訴訟を続けている有様。それが、原告の1人アナの証言録取(口頭弁論前のディスカバリーの手続だと思います。ディスカバリーについては「反対尋問」のページをお読みください)中に、薬を切らしてか裸になってアナに迫るというところから騒動が勃発します。その後アーサーは単に異常を来したのではなく、製薬会社の嘘を知りアナに真実を伝え製薬会社の内部資料を渡そうとしていたことがわかります。
 巨大訴訟のプレッシャー、膨大な(殺人的な)業務量の圧迫、そして自分の依頼者に正義がない(危険性を知りながら隠蔽していた)ことを知った落胆。それで消耗しつくし、精神に異常を来した担当弁護士。その後の展開に関係なく、ここまでだけで、弁護士としては考え込み共感し涙してしまいます。

 アーサーの異常な行動に慌てて、もみ消しを図る所属事務所から依頼を受けたのが、ジョージ・クルーニー演じるマイケル。
 彼は弁護士でありながら法廷には立たず裏でトラブルをもみ消す「フィクサー」として使われていました。彼も、大規模事務所に雇われフィクサーとして数々の仕事をしながらも、自分の仕事に疑問を感じています。事務所の経営者に対して法廷に戻りたいと何度も言ったと迫り、しかし一蹴される場面がまた、同業者としては哀れを感じさせます。
 マイケルは親族の借金を保証したことやポーカー賭博での負けで借金取りに追われ、仕事の傍ら金策に走り回ります。このあたり、哀れではありますが、こういう稼業だとギャンブルでもやらないと気持ちが収まらないかなとちょっと同情したりします。でも、アメリカの弁護士ものでは、正義の側の弁護士はたいてい借金取りに追われていて、そうでないと観客の共感を呼ばないのかなと考えたりもしました。

 他方、製薬会社の法務部門の責任者がティルダ・スウィントン(アカデミー助演女優賞)演じるカレン。彼女がまた弁護士で、巨大訴訟を任されて気負う姿がありあり。

 この主要な登場人物3人が、それぞれ弁護士として悩む姿に、同業者としては、それだけでいろいろ感じます。
 ただ、それにしても、アーサーが自分の依頼者の相手方に直接資料を渡そうとすることは、弁護士としては明らかに踏み外していますし、ましてやカレンがアーサーを始末する決断をするのも論外で、そのあたりがやりすぎでちょっと現実感をそがれてしまいます。それにマイケルがアーサーの部屋に忍び込むとき、手袋もしていない(指紋を残さない配慮がない)のもあまりに思慮がない。

 でも、ジョージ・クルーニーの顔の演技と息子のかわいさで、映像的にも楽しめて、私としては、満足して帰ってきました。

(2008.4.19記)

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