庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「キャプテン・フィリップス」
ここがポイント
 銃を突きつけられながら冷静に駆け引きする勇気と知恵を賞賛しつつ、最後にパニックと涙を見せる描写は、マッチョなヒーロー像の枠を外れて少しいい感じ
 アメリカは善、アフリカ人の海賊は凶暴なヤク中で悪というステレオタイプは鼻につく

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 ソマリア沖で海賊の人質になった民間輸送船船長を描いた映画「キャプテン・フィリップス」を見てきました。
 封切り7週目日曜日、新宿ミラノ3(209席)午前11時の上映は4割くらいの入り。観客の年齢層は高め。

 2009年、輸送船マースク・アラバマはソマリア沖で武装した4人の海賊に襲われた。回避行動を尽くしたが海賊がはしごをかけボートから乗り込んでくるのを見た船長リチャード・フィリップス(トム・ハンクス)は、船員たちに船底に隠れ船を止め電源を切り海賊に発見されないようにと指示を出す。海賊の代表ムセ(バーカッド・アブディ)と駆け引きをしつつ裸足の海賊ビラル(バーカッド・アブディラマン)に怪我をさせて機関室を独りで捜索し続けるムセを船員に取り押さえさせたフィリップスは、海賊たちにムセを解放し金庫の3万ドルを持たせる条件で救命ボートで下船させることに成功したが、海賊たちの手で救命ボートに引きずり込まれる。知らせを受けて駆けつけたアメリカ海軍は無線でムセと交渉しながら特殊部隊の到着を待つが…というお話。

 銃器を手に船内に現れた海賊と丸腰で駆け引きを続け、1人人質となって銃を持つ4人の男に囲まれながらも懐柔と駆け引きを続けるフィリップスの勇気と知恵が見どころの作品ですが、私には、フィリップスの家族特に妻への愛と耐えに耐えた最後に見せるパニックと涙が印象深く思えました。アクションヒーローのような戦うマッチョではなく、冷静さと機転で勝負する姿と、恐怖に脅え涙する弱さを持ちあわせる人間らしい勇気というのがかえって感動的に思えたのです。あのラストでは、きっとPTSDに悩まされただろうなとも思いますが。
 冒頭の年を取り仕事が辛くなってきたと嘆きつつ妻とのしばしの別れを名残惜しむ姿が、終盤でのピンチに際しての妻への思いと通じています。

 他方、海賊側については、貧しい生まれ、組織の搾取、上の命令でやらざるを得ない、アメリカの大きな船が魚をごっそり捕っていき漁師でやっていけないなどの事情は描いています(フィリップスが「漁師は人を誘拐しなくてもやっていけるだろう」と問いかけ、ムセが「アメリカならな」 Maybe , America. と応じるやりとりなど)が、海賊たちの描写は、フィリップスの手当を受けたビラルの若干の動揺を除けば、ヤク中で凶暴なチンピラヤクザそのものです。フィリップスに銃を突きつけ続け度々殺そうとする言動と相まって、多くの観客には、海賊たちは殺されても当然という思いを持たせたのではないでしょうか。
 私は、アメリカ海軍が「交渉」すると信じ、アメリカに行けば自分にも明るい未来があると信じるムセに純朴で哀れな少年性を感じてしまうのですが。
(2014.1.13記)

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