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たぶん週1エッセイ◆
映画「アルゴ」
 1979年の在テヘランアメリカ大使館占拠事件の際に裏口から脱出してカナダ大使私邸に逃げ込んだ6人の救助作戦を描いた映画「アルゴ」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、ヒューマントラストシネマ渋谷シアター2(183席)午前11時50分の上映は7割くらいの入り。

 1979年11月、イランから亡命した独裁者パーレビの身柄引き渡しを求めてアメリカ大使館を取り囲んでいた群衆が柵を乗り越えて乱入し、大使館員56名を人質にとってアメリカ大使館を占拠した。その際、混乱の中で裏口から6人の大使館員が逃げ出しカナダ大使の私邸に逃げ込んで匿われた。大使館占拠事件は一向に解決する気配もなく、6人は外出もできないままカナダ大使私邸内で隠遁生活を送っていた。人質救出作戦を検討するCIAの会議ははかばかしくなく、その中でトニー・メンデス(ベン・アフラック)はイランでロケが可能な映画制作をでっち上げて6人をカナダから最近来た映画制作スタッフと偽ってニセの旅券で空港から帰国させる案を提案、他に有望な案もないため承認される。イラン側に信用されるよう、ハリウッドの有名プロデューサーの協力を得てイランでの撮影に適した没脚本を買い取って公開の脚本読み会を開き大々的に発表して映画雑誌にも記事を載せてもらい、メンデスはイランに入国する。大使館員がシュレッダーにかけて廃棄した写真付きの大使館員名簿の復元作業が進み、大使館員の数が足りないことにイラン側が気付き、カナダ大使私邸のイラン人メイドも「カナダからの客」が長期にわたって外出していないことに不審感を持つ。イラン側はメンデスに映画のロケハンを許可するとともにスタッフとともにバザールで担当者と会うことを求めてきたが・・・というお話。

 一応冒頭の経過の説明で、民主的に生まれたモサデク政権を、油田の国有化というアメリカの国益に反する政策を嫌ってCIAが転覆させてパーレビ政権を生み出してその恐怖政治をアメリカが支援してきたが、民衆の怒りを買ってパーレビがアメリカに亡命し、次いで生まれたホメイニ政権の下でパーレビを裁判にかけて処罰するためにアメリカに身柄引き渡し要求があり民衆のアメリカに対する反発が強まっていたことを説明していて、事件に至る経過でアメリカ・CIAに原因があることを述べています。既に誰でも知っている事実であり、また簡単なさらっとした説明で映画が始まるとイラン民衆の興奮した映像や革命防衛隊の強圧的な印象によってあっという間にかき消される性質のものではありますが、それなりの公正さを示していることは注目しておきたいところです。
 そうはいっても、登場するイラン人は、カナダ大使私邸のメイドのサラ以外は、個別の人間としての描写に欠け、興奮した暴徒か、興奮し憤激する群衆、強圧的な兵士でしかなく、「文明の衝突」レベルのイスラム観、イラン人観にとどまっていることがありありとうかがえます。
 アメリカ映画ですから、まぁ当然といっていいでしょうけど、そういったアメリカから見た正義の土台を疑わないという条件での、関係者の善意と勇気とチームワーク、圧倒的に困難な状況でも絶望せずに最善を尽くし続けるメンデスのリーダーシップが生み出したスリリングな奇跡というのが見せどころの映画になっています。実話に基づく作品とされていますが、特に終盤のスリリングな展開はかなり脚色されているのだと思います。

 タイトルの「アルゴ」は、人質救出作戦のためにでっち上げたニセ映画のタイトルです。救出関係者の間で「 Argo fuck yourself ! 」が挨拶代わりになっています。
 さらにたどると、このSFファンタジーのニセ映画につけられたタイトルの Argo はギリシャ神話の「 Jason and the Golden Flees 」でジェイソン(最近は原語重視でイアソンと表記される方が多数派のようですが)らが乗り組んだ船の名前のようです。たぶん高1の時に、英語のリーダーの教材で半年くらい Jason and the Golden Flees を読まされたはずですが、そんなの全然思い出せませんでした。

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