庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「アントキノイノチ」
ここがポイント
 かなりヘビーな設定のもどかしくもすれ違う恋愛が1つの軸。この不器用さぎこちなさが切ないところ
 遺品整理業とその中で描かれる孤独死と死者の生活と思い、遺族の思いというあたりは、考えさせられるが、映画としては、「おくりびと」の2番煎じ的な印象を持ってしまう

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 心を閉ざしてしまった青年が遺品整理業で働きながら再生して行く姿を描いた青春映画「アントキノイノチ」を見てきました。
 封切り5日目祝日、12月25日での閉館が決まりこれが最後の上映作品となる見込みの池袋東急、午前11時の上映は4割くらいの入り。予告編なし(この先上映作品もないし)に魅力を感じる客は少ないでしょうか。

 高校時代、生まれつき吃音がある永島杏平(岡田将生)は、級友の山木(染谷将太)が松井(松坂桃李)のいじめを受けて松井にナイフを向けたのを止めたところ、山木からおまえだけは味方だと思ってたのにと言われ、目の前で山木が飛び降り自殺、その後は松井から陰湿ないじめの標的とされ続け、登山部での登山中のできごとを契機に、学園祭のさなか松井のいじめを知りながら黙っている周囲に激高し、松井に刃を向け、心が壊れた。3年後、父親の紹介で遺品整理業で働き始めた杏平は、先輩の佐相(原田泰造)、久保田ゆき(榮倉奈々)に教えられながら、死者の生前の生活と思い、遺族の思いを感じつつ仕事を覚えていく。そんな中、ゆきから過去のことを打ち明けられ、ラブホの部屋で迫られた杏平は・・・というお話。

 吃音がありスムーズに話ができず、いじめや級友の自殺から心が壊れて立ち直り切れていない青年とレイプ・妊娠・流産の過去から立ち直り切れていないリスカ少女という、かなりヘビーな設定のもどかしくもすれ違う恋愛が1つの軸になっていますが、この不器用さぎこちなさが切ないというところ。
 思わせぶりに紹介したラブホのシーンも、リスカの跡のある人からレイプされてその後男の人から触られるのが怖くてと打ち明けられた直後のシチュエーションで、そりゃないだろうって思う。そういう状況が見えずに迫ってしまうゆきの不器用さがちょっと切ない。
 観覧車の中で、いきなり立ち上がって窓を開けて大声上げる(それもただウォーって)杏平も。そんなことされたら一緒にいる相手はかなりびびると思うんだけど。
 2人の恋の行方の方は、終盤はとにかくアントニオ猪木になってしまうので、私にはちょっと不完全燃焼の思いが残ります。そっちに行くなら「燃える闘魂」で迫れ・・・というわけにも行かないか。

 2人の心の傷が、どちらも高校生活、高校の級友から受けた傷というのも、学校の荒廃というか陰湿ないじめの蔓延を背後的なテーマとしているといえるでしょうか。
 もっとも、杏平は両親が離婚して父親と2人暮らし、「お父さんも浮気していたから、お母さんを責められない」「そんな話聞きたくない」なんてやりとりをしてますし、ゆきもレイプの後母親が理解してくれなかったことにも触れていますから、家庭環境の問題も気にしてるでしょうか。

 遺品整理業とその中で描かれる孤独死と死者の生活と思い、遺族の思いというあたりは、考えさせられますが、同時に映画としては、「おくりびと」の2番煎じ的な印象を持ってしまいます。
 杏平らが遺品を整理する孤独死した人の部屋の様子を見ていると、私の場合は、自宅はまだしも、事務所の散らかりようからして、私が死んだらこういう業者さんにお願いすることになるだろうなと、そちらに思いをはせてしまいました。

(2011.11.23記)

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