庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

たぶん週1エッセイ◆
映画「愛してる、愛してない」
ここがポイント
 妻に浮気されて別れを言い渡され怒る気にもなれず哀しみにうちひしがれつつ耐える夫と、別れを宣言したものの迷いを持ち怒らず引き留めない夫に苛立つ妻の心情・心象風景をテーマとした、情感に訴える、しかしそれだけの映画

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 浮気して出て行く妻との別れの日の情景を描いた韓流映画「愛してる、愛してない」を見てきました。
 封切り3週目土曜日、全国で2館、東京で唯一の上映館新宿武蔵野館スクリーン3(84席)午前9時30分の上映は7〜8割の入り。観客層は圧倒的に中高年女性。見渡す限り男性は私を含めて3人。いずれも妻に引きずられてきたと見えます。この映画を男一人で見に行くのは、場末のポルノ専門映画館を女性が訪れるくらいの覚悟が必要と思えます。

 日本へ向かう飛行機に乗る妻(イム・スジョン)を送る車中、仕事場を自宅に移すという夫(ヒョンビン)に対し、妻は家を出ると通告、好きな人がいるのかと聞かれて、ええ、気がついてたでしょと答え、夫はわかったという。別れの日、荷造りをするといいつつボーッとしている妻を尻目に、夫は想い出のレストランに夕食を予約し、妻の荷造りを手伝い、コーヒーを入れ、何くれと妻の世話を焼く。降りしきる雨の中、子猫が迷い込み、子猫の飼い主という夫婦が上がり込み、豪雨でソウルへの道は閉鎖される。自宅に様子伺いの電話をかけてきた男に妻は雨で道が閉鎖されているから明日にすると伝え…というお話。

 妻に浮気されて別れを言い渡され怒る気にもなれず哀しみにうちひしがれつつ耐える夫と、別れを宣言したものの迷いを持ち怒らず引き留めない夫に苛立つ妻の心情・心象風景をテーマとした、情感に訴える、しかしそれだけの映画です。その心情描写に強い興味が持てれば、ひょっとすれば名作と評価できるかもしれませんし、そうでなければばかばかしい駄作と思うでしょう。エンドロールの際に流れるアコースティックギターのインストルメントが、雨だれ風のメロディに混じる金属弦のきしみで、この夫婦の切なさとぎこちなさ、痛みをよく表しているように感じられました。エンドロールの間に席を立つ客が目立ちましたけど。
 夫の側の視点からすれば、浮気をしてその男の元に行くために出て行くと妻に宣言されてしまえば、引き留めても事態は変わらないだろうし、変わったとしてもそれ以前の気持ちに戻れるではなし、引き留めるという選択は、基本、ないだろうと思うんです。そうすると、怒って追い出すか、きれいに別れるかだろうと。で、この夫はきれいに別れる方を選んだということなんだろうと、私は思います。夫婦ともにエネルギーが感じられず(そういう人が建築家であれ、何であれ成功するかという疑問はありますが、それは作りごとの世界として)、怒りを爆発させるという方向性はむしろ性格設定からしてもなさそうです。そういう点からは、私はこの夫の態度にはあまり違和感ありませんでした。
 妻側は、そういう夫の態度に不満を持ち、浮気をして出て行く妻の荷造りをどうして手伝うだの想い出のレストランに予約を入れていい想い出を残そうなんて身勝手などと毒づくのですが、浮気をして出て行く身勝手な女にそんなこと言われるか、と思います。押し寄せた女性の観客はこの映画で何を期待するのでしょう。ほかの男と浮気をして出て行く身勝手な私、でもそれを愛し続けてくれる優しい夫もいる、なんて罪な私とか、この妻に感情移入するのでしょうか。
 映画が始まる前に、主演のヒョンビンが出て来て、この映画の見どころはネコが迷い込んできたところからだとか解説を始め、「みなさん、愛してる」といって締めくくる映像がついています。率直に言って、これを見た段階で、ばかばかしくて帰りたくなりましたけど、女性ファンにはこれがいいんでしょうか。

 映画全体が、最初は車の運転席の映像、その後別れの日はすべて夫婦の家の中の映像ですし、安上がりの映画だなぁという印象を持ちます。
 最初の方で、夫は店が出せるほどの料理の名手と紹介されるのですが、ラスト近くで得意のパスタを作る場面が酷すぎる。パスタって、私の感覚では、ゆであがったらそれまでに作っておいたソースと手早く絡めてすぐ食べるものと思っていたのですが、そこから違うみたいですね。夫がパスタをゆであげて水切りして野菜を炒め始める、その後にタマネギを切り始める…そこから妻がパスタを引き継いで、パスタを延々と炒める…焼きそば作ってるのか?って思いました。そのあたりは、パスタについての見解の相違かもしれません。それにしても、夫がフライパンで野菜を炒めるシーンのアップがしばらくありますが、炒める手際、とりわけ箸の使いたかがど素人の基準でもぎこちなさ過ぎ。料理が上手って設定なら少しは練習してから撮ればって、ほとほと呆れました。
(2013.3.30記)

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