◆私のお薦め本◆
でいごの花の下に
 池永陽 集英社 2005年
 沖縄戦と戦後の沖縄を引きずる沖縄の人々と東京の女性燿子が絡みあう、形としては恋愛小説。
 雑誌の仕事で知り合った沖縄在住のフォトグラファー嘉出川が自殺を示唆するメモを残して失踪した後を燿子が追跡し、その過程で知り合った沖縄の人々から沖縄戦や戦後の沖縄の苦悩を聞かされ、感じ取っていくという展開を取っています。
 戦争中のことを含めた沖縄の歴史については、少し力が入っていますが、内容的には、沖縄に行って普通の観光だけじゃなく平和ガイドさんたちに頼んで「集団自決」(実際には自決ではなく日本軍に殺された)跡など案内してもらえば聞ける内容です。エピソードとしてはそういう場面で聞ける話を超えてはいないと思います。
 その意味では、本土の人間が学んで書くものとしてはそこそこのレベルぐらいのとらえ方をすべきでしょう。
 沖縄のことを知る上で、この小説のいいところは、作者の主観はわかりませんが、本土の人間で沖縄の歴史を知らない燿子の立場で話が進んでいくことで、「沖縄の歴史を学ぶんだぞ」と力むことなく沖縄が入ってくることだと思います。本格的に知りたい人は小説じゃなくて別の書物に向かうでしょうから。
 頑固なおじい(照屋)、深みのあるおばあ(トミ)、中学生のくせに妙に落ち着いた祐月らの登場人物の造形がよくできています。
 また、重いめのテーマをストーリー展開がうまくさばいて、それほど暗くならずに読み進めます(私はそう感じました。人によって感じ方が違うかとは思いますが)。
 最後はうまくハッピーエンドというか心が温かくなって終われますので、読後感もいいです。
 一番最後については、ちょっとハッピーエンドを演出するために取って付けたような感じもしましたけど。まあ、ラストエピソードを嘉出川の人物造形上一貫しないと捉えるか、複雑さ・人間らしさと捉えるかも意見が分かれそうですけど。
 とびきりお薦めとまではいいませんが、私が今年読んだ小説の中では一番かなと思います。

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