庶民の弁護士 伊東良徳のサイト

  私の読書日記  2018年6月

01.モラル・ハラスメント 職場におけるみえない暴力 マリー=フランス・イルゴイエンヌ 文庫クセジュ
 職場における「モラル・ハラスメント」について、1998年にその概念を創出した精神科医が、解説した本。
 著者は、というより訳者は、日本における「パワー・ハラスメント」の概念は限定的に過ぎると批判しています(148ページ)。著者は「モラル・ハラスメントは、確認することが難しいみえない暴力である。仲間はずれ、職場ぐるみの中傷、なされた仕事への悪口、労働の過小評価、公然たる侮辱、悪意に満ちたうわさ話、これらが、理由なく人を傷つけるのである」と述べ(3ページ)、「労働におけるモラル・ハラスメントとは、あらゆる不適切な行為(身振り、発言、行動、態度など)が、繰り返しあるいは職場ぐるみで行われ、労働者の精神的あるいは肉体的尊厳や健全性を損ない、その雇用を危機にさらしたり職場環境を劣悪化させたりすることをいう」と定義しています(17ページ)。
 原文のせいなのか、訳文のせいなのか、文章がこなれておらず、今ひとつ厳密性/正確性を欠くように感じられ、日本でのパワー・ハラスメントへの応用を考え比較しながら読み進むのにしんどい思いが募りましたが、フランスではモラル・ハラスメントが刑罰で禁止されているという下りは、注目を要します。「権利や尊厳を侵害し、肉体的あるいは精神的健康を悪化させ、もしくは職業生活に影響を及ぼす恐れのある労働条件の劣化を目的とするあるいはその効果を有する繰り返される行為によって他人にハラスメントを与えることは、2年の禁固刑および3万ユーロの罰金によって処罰される」(刑法典第222-33-2条)のだそうです(130ページ)。今ひとつ処罰される行為がみえにくく、どういう運用されているのか興味深いところではありますが、「セクハラ罪という罪はない」などと言って高級官僚の行為の調査も不要などと開き直る人物が平然と官庁のトップに居座るような我が国の状況では、こういう処罰規定を設けた方がいいのかもしれません。

 読書日記は、2017年半ば頃までは、原則として読んだ本全部について何か書く/書くよう努力するという方針でやってきましたが、現在は、これは書いておこうと思ったときだけ書くことにしています。

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