私の読書日記  2012年12月

07.ざっくりわかる宇宙論 竹内薫 ちくま新書
 コペルニクスからアインシュタインとビッグ・バン宇宙論までを「クラシックな宇宙論」、加速膨張する宇宙と宇宙の始まり・未来についての現在の天文学者の共通理解を「モダンな宇宙論」、ブラックホールとワームホール、超ひも理論とブレーン宇宙論を「SFのような宇宙論」として、サイエンス作家の立場から一般人向けに宇宙論を解説した本。アインシュタインの相対性理論の大前提として光速を超えられるものは存在しないという原則があることを高校生の時に読んでそういうものとして育った者としては、多数の恒星からの光を受けながら夜が昼間のように明るくならない理由を説明するのに遠く離れるほど遠ざかる速度が速くなり十分離れると地球から遠ざかる速度が光速を超えて恒星の光が届かなくなる(15〜18ページ)というのも、やや違和感を覚えつつもこれは相対速度なのでそれぞれは光速以下の範囲で説明できるとしても、宇宙が加速膨張していてその結果遠くほど相対速度が大きくなる(62〜65ページ)とすると理論上は遠く離れた宇宙と地球の相対速度は光速の2倍を超えうることになるのではという疑問に突き当たります。そうなると、それぞれの速度も光速以上に、理論上はなるはずで、光速を超えるものはないという相対性理論の前提はどこへ行ってしまうのか、「相対速度が光速を超えれば観測できない以上それは存在しないも同然」で済ませられないような気がするのですが。そういうことも含めて、あちこちで詰めなかったり触れなかったりわかっていないというところが多くて欲求不満が残るのと、まえがきで著者がすね気味なのがちょっとひっかかります。とはいえ、宇宙論について、一般読者が何とか読んでみようかという気になれる読み物として貴重というか手頃な本で、その点は評価したいと思います。

06.たとえば、すぐりとおれの恋 はらだみずき 祥伝社
 高校卒業まで垢抜けない赤いフレームのメガネをかけていたためか男に縁のなかった短大卒の保育士向井すぐりと、イケメンだが父親の愛に恵まれず家族関係も悪く人付き合いが苦手なケーブルテレビ局営業担当の高萩草介の、奥手な2人の初心で不器用な関係を描いた恋愛小説。父親とのギスギスした関係の過去を引きずり、浮気性の母親ともしっくりといかず、すねて逸脱に走る弟とも疎遠になり、すぐりとつきあいながらも内向きになり家族や過去への質問に苛立ち時としていっぱいいっぱいになってすぐりを置いて立ち去る草介と、草介の家族や過去に踏み込んでは後悔しつつ草介の逃走や苛立ちをがまんできないすぐりの、若さ、未熟さが甘酸っぱくもみずみずしい。傍目からはこう進んだらダメだねとは思うものの、20代前半のころの自分を振り返っても、そこまでの寛容や視野を求めるのは無理な話。初心な時代の葛藤や精一杯さ加減を思い出させてくれるお話でした。すぐりが話者の章と草介が話者の章が交互に繰り返され、それは読めばわかるのだけど、イラストのマークで話者が示されていて視覚的にもわかりやすい。同じ場面が相手方の立場から振り返られ、思惑のズレが描かれるのが、こういう恋愛小説では効果的に感じられます。すぐりを抱きたくなってラブホに誘おうと展開を夢想する草介がすぐりの買い物の様子を見てその気がないと判断して自分で萎えてすねて立ち去る場面(146〜147ページ、181〜183ページ)など、男と女のすれ違いとしていかにもありそうな感じで恥ずかしい。必ずしも男だからこう、女だからこうという話じゃないはずではあるんですが・・・

05.原発のコスト エネルギー転換への視点 大島堅一 岩波新書
 福島原発震災により発生した被害とその賠償、事故を別にしても原子力推進のために湯水のように支出されている費用や使用済み燃料の処理処分等の費用とその負担などを考慮して原発のコストを評価し、原発が実際には決して安くないことを検証した本。コストの計算に入る前の段階で、原子力損害賠償支援機構という法的枠組みが「適切にこの仕組みを運用すれば、東京電力を公的管理のもとに置くことも可能である。これを通じて、発送電分離を進めることもできるし、また原子力発電をむやみに開発したり、エネルギー政策の決定過程に関与したり、多額の広告料を通じてメディアをコントロールしたりといった東京電力の異常な姿勢を改善させることもできる」(76〜77ページ)と同時に、東京電力を債務超過にせず経営責任を問わずその結果東京電力が原発事故を引き起こした体質をそのまま温存することにつながり(76ページ)、賠償の負担金についても電力会社は電気料金原価への算入禁止に抵抗しており株主や債権者(金融機関)が一切責任をとらないで国民に負担を転嫁させようとしていること(78ページ)を指摘し、さらに電力会社や財界の主張に自民党が賛同して賠償額の上限を定めさせようとしていることについて原子力発電から得られる利益を私企業としての電力会社が享受しその結果として生み出される巨大な損害を国民持ちにするというのはあまりに都合がよすぎる(84ページ)と指摘しています。こういった指摘は、コストの社会的負担という観点からも重要だと思います。コスト計算では、電事連が示してきた試算が原発については40年運転・設備利用率80%という現実より原発のコストを安く計算するように作られたモデルによるものであること(92〜95ページ)、モデルによらず電力会社が1970〜2010年度に現実に支払ったコストで計算すると水力発電が一番安かったこと(104ページ)、さらに国が肩代わりしてきた技術開発コストと電気料金に含まれる電源三法交付金等の立地コストを加えると1970〜2010年度の平均実績ベースでキロワット時あたり原子力が10.25円、火力が9.91円、水力が7.19円と原子力が最も高いこと(105〜112ページ)、従って事故被害のコストやバックエンドコスト(使用済み燃料の処理処分や廃炉の費用)を考慮する前でさえ原子力が一番高いこと、事故被害やバックエンドコストは確実な計算もできない状態で将来につけ回しされること(112〜128ページ)などが指摘されています。そして脱原発の現実性についても、コストの観点から、短期的な火力代替による燃料費の問題ばかりを見るのではなく、節電の効果や脱原発により原発運転のために支出してきたさまざまなコスト(社会的コストを含む)が不要になることを考慮すれば脱原発のコストよりも原発依存のコストの方が大きいと見るのが自然だ(193〜199ページ)と指摘しています。電力会社と財界の原発推進のためにするコスト論ではなく、経済学者の広い視野からの現実的で貴重な指摘として受け止めたいところです。

04.派遣法改正で雇用を守る 西谷敏、中野麻美 旬報社
 2008年暮れの派遣切り・年越し派遣村を経て当時の自公政権がとりまとめた労働者派遣法改正案に対して、労働者側の立場から批判的に検討した本。労働者派遣という形態自体が、派遣会社と派遣先で決められる労働者派遣契約には労働法による規制が直接及ばず、その結果、派遣労働というサービスがもののように競争入札にかけられて買い叩かれ、それに連動して労働条件が切り崩される仕組みになっていること(45〜49ページ)などがシンプルに論じられています。このところ、弁護士会で負わされたミッションのために立て続けに派遣法に関する使用者サイドの本を読み続けて使用者側の言いたい放題を聞かされてフラストレーションがたまっていた私には、すっきりと読めました。派遣法違反の違法派遣も、それを労働者が内部告発しても派遣労働者が職を失うことになるために内部告発もできないことを捉え、「盗品から利益を受けるものを処罰しなければ窃盗や強盗はなくせない」として違法派遣があったら派遣先にみなし雇用責任を認めるべき(53〜56ページ、71〜72ページ)という議論は、挑発的な表現ではありますが、わかりやすい。派遣法改正は、その後民主党政権になってより大幅な改正案が出されながらねじれ国会と労使対立に翻弄されて棚晒しとなり、改正の看板がいくつも落ちた小幅改正で2012年に成立しましたが、今、改めてこの自民党政権時代の政府案批判を読んでみると、今回成立した改正はほとんどが自民党政権時代の案に戻ったものだったのねとわかり、3年半前に書かれたこの本の批判の多くがまだ当てはまると感じられます。う〜ん、あれだけ問題になった派遣切りや派遣村から3年かかって何してたんだろう。

03.実務解説改正労働者派遣法対応マニュアル 小松太郎 レクシスネクシス・ジャパン
 2012年改正後の労働者派遣法について、派遣会社、派遣先企業、派遣労働者から見た業務の順序にあわせて手続を解説した本。著者は派遣元責任者講習の講師という立場から、派遣法の逐条解説ではなく、実務手続に沿った解説の方がわかりやすく聞く方も関心が持てるという考えでこの本の構成を組み立てていて、その点では概ね成功しているように思えます。ただ私は労働者派遣の現場からの解説を期待して読んだのですが、現場での実務手続に関する情報は必ずしも多くなく、例えば契約書等も厚労省や労働局のサイト掲載のものを用い、法規制に関する解説内容も厚労省の業務取扱要領の解説が大部分を占めています。著者の主張が出ている部分も相当ありますが、そこは労働者派遣業が当然に認められるべきもので、日雇い派遣しかできない人がいるのに禁止するのはけしからんというような思考パターンが中心になっています。企業はより安くて簡単に切れる労働力を欲するから日雇い派遣を認めれば正社員のニーズは減り日雇い派遣のニーズはできるということで、日雇い派遣、さらには派遣が許されていなかった時代は、著者のいう日雇い派遣しかできない人は派遣以外の形で働けていたのだと思います。ニワトリ・卵かもしれませんが、現状を当然の前提として議論することには疑問を持ちます。また、著者の主張で、非正規雇用の賃金の安さに関して、「あなたの賃金が低いのは自分の望む時間に働く自由を得るための代償であることを認めますか?」というのが「本質的な質問」(13ページ)という発想にはぶっ飛びました。ネットカフェ難民もホームレスも自由になるためにやってると解釈されそうです。そして派遣問題の最終的な解決は派遣労働者が個人事業主になることだそうです(261〜262ページ)。著者の主観・目的はわかりませんが、その発注者になる企業からすれば、労働者を請負の形にして労働者としての保護まではずそうという、企業形態の派遣・請負とは別形態の「偽装請負」になるだけでしょう。解説部分では、派遣受入期間の制限がある業務の抵触日(期限が来て派遣ができなくなる日)の1か月前から抵触日の前日までに抵触日の通知をすることになっているが、1か月前では対応ができず遅すぎるという批判を繰り返しています(派遣会社のところでは142ページ、派遣先のところでは192ページ、派遣労働者のところでは235ページ)。しかし、そもそも抵触日は派遣先が当然に把握しており、労働者派遣契約締結までに派遣先が派遣会社に通知するものですし、労働者にも就業条件明示書で知らされていなければなりません。派遣開始前にわかっていることで、その後の対策はむしろ最初の時点から考えるべきことというのが法律の立場です。抵触日の前に通知するのは抵触日の通知ではなく抵触日以降は派遣を停止するという法律の規定上は当然のことの通知です。それが1か月前では遅すぎるというのは、むしろ派遣開始前の段階でやらなければならない抵触日の通知やその就業条件明示書への記載が現実には行われていないからではないかと勘ぐってしまいます。さらにいえば、著者が1か月前では遅すぎると「制度」を批判している派遣停止通知も、実際行われてるかかなり疑問に思っています。派遣受入期間経過後の労働契約申込義務が問題になった裁判の事例でも派遣停止通知は行われていませんでしたし。現場に精通している立場の人の本では、派遣会社の利害を主張するよりもそういうことも含めた実務の実情をきちんと書いて欲しいなという気がします。

02.人事労務担当者の疑問に応える平成24年改正改正労働者派遣法 岩出誠 第一法規
 労働者派遣法の2012年改正について、改正部分に絞って使用者側の立場から改正内容と評価と対策を説明した本。改正により変わった点とそこから予想されることや使用者側の対応について詳しく書かれており、改正前の派遣法がわかっている人には必要十分な内容になっていると思います。労働者側の弁護士にとっては、使用者側がこういうことを考えてるんだという点でも参考になりますが、実務的にそつなくまとめるというよりは戦闘的な姿勢で書かれていて、刺激的な部分もあります。グループ企業内派遣に対して新たに課せられた規制を回避するために在籍出向を利用すべきと勧めつつ、在籍出向は形態として労働者供給に該当するという厚労省の見解を否定し批判する下り(51〜56ページ)は、業として行う在籍出向と単純なグループ間人事交流としての在籍出向をきちんと区別して論じているか疑問を感じました。派遣会社が「業として」グループ会社への在籍出向を行うのは、やはり労働者供給事業に当たる(従って違法)と解する方が自然だと思うのですが。また、2015年10月1日から実施される違法派遣を受けている派遣先の労働契約申込みなし制度(派遣先への直接雇用)が適用された場合の労働条件について派遣先の就業規則より不利な部分が就業規則で修正されるかという論点について、改正派遣法が「当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件」と定めたことが優先して就業規則による修正を受けないと論じている下り(132〜134ページ)もかなり強引。労働契約法12条の就業規則の最低基準効は適用除外されていませんし、改正派遣法が派遣先労働者との均衡待遇確保配慮義務(義務を負うのは派遣元ですけどね)を定めていることを見ても派遣先と直接雇用が成立するときに派遣先の就業規則の適用を排除しようという発想が出てくるのが不思議。著者もそこは「強引な解釈」でこれによることはリスクが高いと認めていますが(134ページ)。著者はその上で、申込みなし制度で直接雇用されることになる労働者に正社員の規定(例えば退職金規程)が適用されないように、申込みなし制度で採用された労働者に対する適用除外を定めておくことを勧めています(136ページ)が、そういう規定を作ることは、みなし制度が適用されるような違法派遣を受けていると派遣先企業が認識していることを自白しているような気がするんですが(労働契約申込みなし制度は、派遣先企業が違法派遣を受けていることを知らず、かつ知らなかったことに過失がないときは適用されないのですが、その主張は諦めてくれるんですね?)。なお、22ページ9行目小見出しの「派遣責任」は「派遣契約」、37ページ17行目の「例外的に」はその前に「専ら派遣に関して」などと補う必要があり、64ページ下から3行目の「休日手当」は「休業手当」など、誤植の類がちょっと目につきました。

01.Q&A労働者派遣の実務 平成24年改正法と企業実務 五三智仁 民事法研究会
 2008年秋以降の派遣切り問題から当初は派遣労働者保護のために登録型派遣・製造業派遣の禁止を打ちだしていたものの結局はそれらが見送られて小幅改正となった2012年労働者派遣法改正を受けて、専ら使用者側の視点から、改正後の労働者派遣の実務を解説する本。実務的な問題意識に徹していて、弁護士の目にはとても実用的な本に仕上がっています。弁護士以外が読み通す気になるかはわかりませんが。労働者側の弁護士にとって、労働基準監督署の使用者への行政指導や、それに対応するために使用者側の弁護士がどのような助言をしているかは、直接経験できないので、使用者側の弁護士が書いた本は大変興味深いところです。著者が嘆いているというか憤っている、派遣受入期間の制限がない専門26業務のうち「事務用機器操作関係業務」についてかつては「データ入力」を重視していたのに2010年5月28日発表の「専門26業務に関する疑義応答集」でデータ入力はもはやこれに当たらないと判断しているようである(78ページ)、派遣受入期間の制限は業務取扱要領では3か月以上の空白期間をとればリセットできるように書いていたのに製造業派遣の派遣受入期間が満了する2009年問題に関する通達では期間満了後もその業務が必要なら直接雇用するか請負によるべきであるとしている(87〜88ページ)、派遣労働者(この場合派遣ということよりも有期雇用という点がポイントだが)の育児休業の可否について通達上は休業期間中に契約期間が切れ一度更新してもその期間も切れるときは育児休業の要件を満たさないはずなのに労働局は派遣労働者にもできる限り育児休業を認める方向で指導している印象を受ける(156ページ)などの点は、労働者側からは不満が多い厚労省もそれなりにがんばっているのかなと思いました。専門26業務は法律の規定上も「専門的な知識、技術または経験を必要とする業務」なのですから今どきデータ入力や普通のパソコン業務がこれに当たらないと解することはむしろ当然だし、育児介護休業法の規定では「引き続き雇用されることが見込まれる者」とすると同時に括弧書きで「当該労働契約の更新がないことが明らかである者を除く」という規定の仕方をしていてもともと1年以上引き続き雇用されていることが要件となっているのだから「更新がないことが明らか」といいにくいことからすれば、法律の規定に沿った行政だというだけと、私は思いますけど。また、著者が厚労省の態度が変わったと指摘する事務用機器操作関係業務の派遣労働者にお茶くみや銀行等への入金、郵便物の振り分け等の一般事務もあわせて行わせたときに全体として専門26業務扱いか自由化業務扱いかについて、業務取扱要領(91ページ)、Q&A(92〜93ページ)、疑義応答集(96〜97ページ、277〜278ページ)を比べ読んでも、厚労省は「付随的」に自由化業務を行わせるときには就業時間の1割以下ならかまわない、事務用機器操作関係業務の「付随的」業務になるのはそれが派遣労働者の仕事とされている場合のゴミ捨て、用紙補給、電話応対まででお茶くみや銀行等への入金、郵便物の振り分け等はこれに当たらないという点で一貫してると思います。派遣労働者が産休・育児休業・介護休業を申し出た場合の処理について、派遣元が代替労働者を派遣しないときは派遣契約を解約してよいと述べている(151、157、161ページ)もののわりと処理に困っている様子が感じられ、労働者側としてはもっとどんどん申し出ようというべきかなと思いました。

**_**区切り線**_**

私の読書日記に戻る私の読書日記へ   読書が好き!に戻る読書が好き!へ

トップページに戻るトップページへ  サイトマップサイトマップへ