私の読書日記  2009年11月

17.カンフーファイブ2 とべ!マァラオ 樹上の猿拳 ジェフ・ストーン ランダムハウス講談社
 15.で紹介した1巻の展開を改めてマァラオを語り手として、マァラオがフゥと別行動していた時間の話でふくらませ、その後の展開を語っています。半分くらいまでかけて1巻をマァラオの視点からフォローしています。1巻の直情径行タイプのフゥの視点と異なり、お茶目で好奇心旺盛なマァラオから語らせることで、物語に奥行きを与えていて、読み物としても深みを持たせています。ただ、このペースだと、少年僧(この巻で1人は少女だったと明かされますが)5人が語り終えても物語がそれほど進まないかなと心配してしまいます。1巻で絶対的な強さを誇っていたインも相対化され、新たな登場人物が出てきて、人間関係や登場人物の思惑が複雑になっていきます。現在日本語版はまだ2巻までしか発行されていませんが、続きが気になります。

16.マイマイ新子 高樹のぶ子 マガジンハウス
 昭和30年の山口県の地方都市を舞台に9歳の新子が大好きな祖父や妹、祖母、母、滅多に帰ってこない父ら家族に囲まれながら、友人たちと繰り広げる小さな冒険や日常を描いた小説。「クロワッサン」連載で、続いている部分と読み切り短編とが混在した感じ。子どもの視点での大人や社会への不思議な思いと成長を描いていますが、どちらかと言えば大人にノスタルジーを感じさせる作品です。作者は、あとがきで、日本版「赤毛のアン」を目指したと言っていますが、どちらかと言えば前半はむしろ昭和30年版「ちびまる子ちゃん」と言った方がしっくりする感じがしました。後半は祖父が寝込んだままで重くなるので印象が変わりますが。私は、この作者は、司法修習中に、芥川賞を取った「光抱く友よ」を読んで以来です。当時は、「弁護士の妻が芥川賞を取った」という業界的関心で、読まなくちゃと思い、読みました。話はもう覚えていませんが、主人公2人のうち1人が、アフリカで飢餓で死ぬ子供たちがたくさんいるのにそれを救わずに多額の金を注ぎ込んでロケットを研究するという問題意識を持ちながら、それでいいんだとあっさり肯定するくだりに違和感を持ち、その後読んでいませんでした。元大地主の娘の設定のこの作品を読んで、ついそういうルーツにつながるものがあるのかなと思ってしまいました。

15.カンフーファイブ1 ほえろフゥ!怒りの虎拳 ジェフ・ストーン ランダムハウス講談社
 秘寺蔵真寺で老師の下カンフーの修行をしていた少年僧5人が、かつてともに修行していた兄弟子イン(広東語で鷹)の率いる皇帝軍に蔵真寺を攻め滅ぼされ老師を殺されて、奪われた秘伝の巻物の奪還と寺の再興を目指して戦う物語。5人の少年僧は、フゥ(広東語で虎)、マァラオ(猿)、セェ(蛇)、ホック(鶴)、ロン(龍)と名付けられ、それぞれに使う武器と拳法と性格が違うという設定。1巻は直情径行型のフゥの視点から、フゥらが実力では勝てないインに対してそれでも立ち向かい窮地に陥るが、仲間や他の者の助けで脱し、なお復讐を誓う姿を描いています。テーマ、展開からして、難しく考える性格のものではなく、単純に活劇として楽しめばいいという作品です。

14.私が見た21の死刑判決 青沼陽一郎 文春新書
 近年の死刑判決の事件について法廷傍聴してきた著者が死刑言い渡しの際の被告人の状況や審理中の被告人や裁判官の様子、判決理由などをレポートした本。時節柄、半分以上はオウム真理教関連です。個別には新聞報道でも書かれていることが多いですが、まとめて読むと、死刑を受け止めるそれぞれの被告人の態度の相違や遺族の様子など、考えさせられます。ジャーナリストが書いたものとしては、地下鉄サリン事件の現場指揮者井上嘉浩について「法廷で見た井上を一言で言えば"イヤな奴"だった」(153ページ)とか、好き嫌いというか思い入れが出ています。ただ、その論調は、直接には死者が1人も出なかった路線の地下鉄サリン事件実行犯横山真人の死刑について疑問を呈する以外は、結局のところ裁判所の判断、それも上級審の判断に沿っていて、お上の尻馬に乗っているようにも思えるのですが。そして著者が自分自身感情的な書き方をしながら、他方において裁判員は感情に流されやすいから検察側のわかりやすい立証で死刑が量産されるとか、逆に劇場型の立証で裁判員の心をつかむ「優秀な」報酬の高い弁護士が登場するとか言っているのも、なんだかなぁと思います。

13.まっすぐ進め 石持浅海 講談社
 童顔の会社員川端直幸が、元同僚の友人黒岩正一、その恋人の太田千草、千草の同僚で偶然直幸が書店で見初めた高野秋に囲まれながら、出会った小さな謎を解いていくミステリー仕立ての短編連作青春小説。秋の左手にはめられた2つのBaby−Gの謎、居酒屋で隣のテーブルにいたカップルが同じワインを2本頼みそれぞれのボトルから飲んでいる理由、バックルを接着剤で固めたリュックをしょってショッピングセンターで迷子になっていた少女の謎、中学生の時に死んだ千草の父が千草の婚約者となる男のために遺した傘の意味、秋の妹が5年前に取った行動の謎といったものを、直幸が行為者の心理だけから解いていくというスタイル。最初の1話は、直幸が書店で見かけた美人の印象を追っていたところが千草の同僚とわかり、という展開が、かつて柴門ふみが得意とした社会人恋愛ストーリーっぽく感じられましたが、その後の展開は恋愛の機微や駆け引きからは離れていきます。一応、直幸と秋、正一と千草の恋愛は順調に進み深まっては行くのですが。そういう意味で社会人恋愛小説としても、比較的微笑ましく読めますが、そう読むには直幸の謎解きが前に出すぎている感じもして、ちょっと中途半端な感じが残ります。

12.バレエ・メカニック 津原泰水 早川書房
 スケッチに夢中で7歳の娘理沙が海岸で戯れているのに気づかず溺れて心停止し植物状態となった娘を生かすために作品を生み出し続け医療費に注ぎ込んでいく前衛芸術家木根原魁と、理沙の主治医で心では女性または両性具有の脳外科医龍神好実が、東京が理沙の心象風景と一体化した「理沙パニック」を経験する第1章、木根原が実在を否定された「理沙パニック」の証拠を求め歩く第2章、よりサイボーグ化、バーチャル・リアリティ化の進んだ近未来においてバーチャル化した理沙を抹殺しようと龍神がさすらう第3章からなるSF。幼い頃に読み聞かされた5人兄弟の物語と「ミツバチ・マーヤの冒険」と前衛芸術からなる理沙の記憶に東京が襲われる第1章は、SFとしてまだ私にも読めますが、その後、この種のパターンにありがちな展開の「不思議の国のアリス」を下敷きにし、コンピュータテクノロジーの発展とサイボーグ化を持ち込みという展開で、私にはついて行けなくなりました。サイボーグ化・電脳化の好きな人には発展かもしれませんが、私には第1章で止めておいた方がよかったように思えます。

11.公務員のためのクレーム対応マニュアル 関根健夫 ぎょうせい
 主として地方自治体の窓口職員とその上司向けの住民からの苦情申し出に対する対応マニュアル本。申し出に対しては、基本的にお客様意識でよく話を聞き誠意を持って対応するという趣旨が繰り返されていますし、クレームは住民の生の声で、要望・意見・提案を含むものとして傾聴すべきとしています。木で鼻をくくったような対応や迷惑意識での対応をしないようにということも書かれています。その意味で、あまりお役所的な対応をするなという部分もあります。しかし、同時に、安易な妥協・例外的取扱は禁物で、できないことはあくまでも拒絶し、相手に理解を促すということが基本になっています。つまり、結論としては役所の立場を貫くが、その際に態度・姿勢は反感を持たれないように丁寧に誠意を見せよう、と読めます。他方、クレーム例を見ていると、こういうこと言われても窓口職員は困るよなぁと、同情したくなるものも少なくありません。役所の側の態度だけじゃなく対応そのものに問題があるケースはあまり紹介されていません(役所向けの本ですから)ので、その分割り引いてというか追加して読む必要があるかと思いますが、双方でいろいろ考えさせられました。

10.宵月閑話 はかなき世界に最期の歌を 佐々原史緒 徳間書店
 神社の総領だった祖母の奇怪な死に納得できない中2の少女宮内麻里が、その謎の解明を「閻魔王宮の臣」小野篁の末裔の青年小野閑に依頼する、和風歴史怨念ファンタジー。家臣として小野家・小野閑に絶対の忠誠を誓うメイド服姿の中2の少女仁希を設定し、メイド服姿の仁希と麻里を表紙イラストにしてオタク狙いが見え見えですが、中身はオカルト怨霊呪い系です。織田信長と雑賀衆の権力闘争の中で息子と自らの命を奪われた者と、戦時体制下の弾圧で夫と息子の命を奪われた者の、権力者の弾圧への怨みを、無差別殺戮に向けた挙げ句に、その呪いを単純な悪として解くことで終わらせる筋立ては、独裁権力による弾圧の被害者・権力と戦おうとする者を嘲笑するようでもあり、少なくとも反権力の抵抗者への視線の冷たさを感じます。死者の霊が見える弁護士が登場して、閑と仁希にこき使われる姿は、同業者として見るに忍びないですが、犯罪者を法廷に引っ張り出すのが「判事の役目」(136ページ)って、なんとかして欲しいなと思いました。起訴するのは検事の役目なんですけど。

09.マック動物病院ボランティア日誌 キケンな野良猫王国 ローリー・ハルツ・アンダーソン 金の星社
 獣医のマッケンジー先生が院長を務めるマック動物病院でボランティアとなった孫娘とその友人たちが動物たちを救うために活動するシリーズの猫編。ボランティアとなった11歳の少女スニータは猫好きだが、母親が猫嫌いで猫が飼えずにいて、動物病院の飼い猫ソクラテスが他の人にはなつかないのに自分になついてくれていることをうれしく思っている。しかし、ソクラテスが病院の庭に入り込んだ猫と喧嘩して失踪し、ソクラテスを探すうちに多数の野良猫が住みついた倉庫跡を発見し、近隣の住民が動物管理センターに捕獲を要求したことを知って、マック先生と相談して、野良猫を一旦捕獲して病気の治療と予防注射をし去勢手術をして再度放すことで安全を確保して住民と共存させる「地域猫制度」を計画する。ところが、マック先生から治療中の野良猫に近づかないように注意されながら自分は猫に愛されていると思いこんでいるスニータはケージに手を入れて噛まれ、狂犬病の疑いがあると大騒ぎになり近隣住民の危機感を強めてしまい・・・というお話。無警戒に野生動物に手を出す子どもに注意し、獣医や動物管理センターの人々の献身的な活動を知らせるお話ではありますが、なんか地域猫制度のPR番組を見せられているような感じがします。猫嫌いの住民と猫好きの住民のトラブルは、住宅に余裕のあるアメリカよりも、日本の方があちこちでありそうです。こういう形で折り合いがつけられていくといいのですが。

08.ティナの明日 アントニオ・マルティネス=メンチェン あすなろ書房
 1940年代のスペインの地方都市で暮らす中学生の少女ティナが、宗教コンクール(キリスト教のコンテスト)の学校代表に指名されて、母親に家事を言いつけられ赤ちゃんの弟をあやしながら、兄とその友人に邪魔されながら、キリスト教の勉強をし、魔女と呼ばれて近所の人たちから疎外されていた老女の死と訪ねてきた息子との交流を経て成長するというお話。当時のスペインの人々の貧しい暮らしと勉強ができても女の子は高校に行けなかった様子、その中で不満を持ちいらだちながらも学び続けるティナの姿が清々しい。そして、体制になびかない人が「魔女」と決めつけられ、抵抗者が「アカ」と決めつけられて弾圧されたのを、自然に感じ取りおかしいと思うティナの感性に共感を覚えます。「アカ」として故郷を追われた「魔女」の息子との心の交流が微笑ましく、切ない。貧しい環境でも静かに堅実に生きていくティナの姿に共感するとともに、能力があっても貧しく静かに生きるしかない運命に哀しさを感じました。

07.販促 鉄板ワザ 竹内謙礼 中経出版
 1時間で手っ取り早く売上を伸ばすネタ帳というベタなキャッチコピーの販促ビジネス本。前書き冒頭の「最初に断っておくが、本書はあまり深く考えて読む本ではない。」という潔さに、つい惹かれてしまいました。中身は、まぁそうだろうけどという羞恥心や見栄を捨てて販売促進に励もうって感じの内容ではありますが、提案自体は極めて具体的即物的でわかりやすい。最後の方で、ネットビジネスに見切りをつけろというアドヴァイスは、ちょっと意外。「ネットビジネスが弱者の味方という時代は終わり、強者がさらに売上を伸ばす販促ツールへと変わってしまった」(242ページ)、ネットビジネスにかかる様々な経費で赤字を垂れ流しているケースは多いという指摘は、考えさせられます。すぐに捨てられるような販促物(アメ玉とかティッシュとか)を配布して社名が入ったものを使い捨てだと思われるのは販促物として逆効果(63〜64ページ)というのも、なかなか考えさせられます。

06.トラム、光をまき散らしながら 名木田恵子 ポプラ社
 母親タエコが夫タツローを交通事故で失った1週間後に18歳で生んだが早産のためその日に死んでしまった双子の姉妹麻理と杏奈の名前を乗せられて「麻理杏奈絵里」と名付けられた、父親のわからない中2の少女が、母が帰らぬ日々を都電に乗って過ごすうちに知り合った高校生のマリアンナと過ごし、喜怒哀楽をぶつけながら前向きになっていく青春小説。泣いてばかりいる母親タエコに涙を見せず母親を慰めるマリアンナエリの気丈さ、そんなマリアンナエリがマリアンナに出会って始めてみせる涙、友だちができず疎外されて孤独に街をさすらうマリアンナエリとマリアンナの姿・・・読んでいて切なくなるシーンが続きます。都電を「光の箱」と見るマリアンナエリの心情にもそれは現れています。出会えた2人の喜びと、思わぬ秘密の発覚と友を傷つけてしまった哀しみに揺れる心、そういったところも含めて切ない思いの方が中心になるけど、でもピュアな気持ちになれる作品だと思いました。

05.5秒であなたは熟睡できる! 松原英多 KKロングセラーズ
 医師の立場から熟睡するための条件と睡眠の効用を説明した本。まるで「ドラえもん」ののび太のようなタイトルは、著者自身、本文でも「5秒間入眠も・・・工夫をこらし、条件さえ満足させれば、誰にだって可能になる」(44〜45ページ)と書いていますから、出版社が勝手につけたのではなさそうです。たぶん、細切れに執筆したものと思われ、同じことの繰り返しが多く、読み物としての流れが悪く、軽い文章の割に読みにくい感じがします。前半では8時間睡眠には根拠はないと短時間熟睡を勧めながら、後半では脳のためには熟睡5時間が必要でそのために睡眠は最低7時間必要と言ってみたり(168ページ)。そういうところから雑な作りの本だと感じますが、面白いことがけっこう書かれています。眠る態勢にするためには副交感神経が優位の状態にすることが大切だということが強調され、意図的に副交感神経が優位の時の体の状態、例えば瞳孔の収縮、毛細血管の拡張などを作り出すことで眠気が訪れるとしています。眠れないときは暗くするよりむしろ明るい光を見続けることで瞳孔が否応なく収縮し副交感神経が優位になって眠くなる(73〜75ページ)とか、手を温めたりマッサージでこりをほぐして血管を拡張することで眠くなる(81、85〜86ページ)、さらにはペットをなでると掌の快感で眠くなる(78〜80ページ)って、へ〜っと思います。脳細胞間の情報伝達物質を構成するタンパク質は熟睡中に再合成される速度が上がる(165〜167ページ)そうで、睡眠は脳を休めるだけでなく、機能の活性化を促進することにもなるようです。そういう情報の断片として興味を感じさせる本でした。

04.碧空の果てに 濱野京子 角川書店
 大陸の盆地にある平原に分立する小国の均衡が西方の大国アインスの侵略に脅かされている状況の下で、東北の小国ユイの王女メイリンが17歳の誕生日を前に馬を駆って国を出奔し、アインスに屈せずにいる選挙で首長を選ぶ自由の国シーハンを訪れ、機知に富むが冷徹な首長ターリの下で従者としてターリを支えながらターリを励まし民衆と心を通わせ明るさを取り戻させつつともにシーハンの野望を押し戻し、メイリンはシーハンで生きる場所を見出していくというファンタジー。設定とか固有名詞とかに「守り人シリーズ」の影響を、私は感じました。ストーリーでは、メイリンが助けたロロの兄で議員のフェイエとターリとメイリンの三角関係、メイリンを慕うロロとの関係といった人間関係ドラマとしての側面と、シーハンの侵略を狙うアインスの王やそれと通じるシーハンの勢力に対するターリの分析と戦略、そこで意見を戦わせるメイリンやフェイエという政治ドラマの側面があり、いずれの面でもそれなりに楽しめます。怪力の馬使いというメイリンの設定と車いすの首長というターリの設定、高い能力と意欲を持つメイリンの生き様という面、背景として問題提起され続けた女性の参政権というテーマから女性解放ドラマとしても読めます。
 女の子が楽しく読める読書ガイドでも紹介

03.ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 黒井勇人 新潮社
 高校中退で引きこもってNEETしていた「マ男」が母親の事故死を契機に一念発起して基本情報技術者資格を取りプログラマーとして就職したが、その就職先が半端でない残業量と異常な人々ばかり(ひとりだけ有能な人格者がおり、社長は優しいが)という状況で苦しみながら一人前になっていく様子を描いた小説。なんとか生き残り実力も付いてきたが入社して3年目で衝撃的なできごとがあり限界だと言ってこれまでのことを「2チャンネル」でスレッドを立てて語り続けたところに多数の2チャンネラーの反応があり、それを出版したそうです。2チャンネルの書き込みそのままの形式なので、小説としてストーリーを追うにはちょっと読みにくい。序盤は労働条件の厳しさが強調されていますが、次第に職場での人間関係に焦点が移って行きます。読んでいると、確かに酷い労働条件なんですが、労働相談受けてると現実にはこういう会社けっこうあるような。終盤になると、3年勤め続けた余裕というか慣れというか、書きぶりも落ちついてきます。タイトルに相違して、最終的なテーマは、むしろ「石の上にも3年」とも読めます。最後まで読むと、厳しい中にも労働の喜びが感じられ、他方そういうことでこんな会社を許していいのかとも思います。

02.プラスマイナスゼロ 若竹七海 ジャイブ
 神奈川県の田舎町葉崎山高校に通う成績・運動能力・容姿・身長体重何から何まで全国標準の「歩く平均値」崎谷美咲と成績優秀品行方正のお嬢様だが信じがたいほど不運な天知百合子(テンコ)と不幸な家庭環境に育った極悪腕力娘黒岩有理(ユーリ)の3人が、高校生活の中で巻き込まれる事件を描く短編ミステリー連作。基本的には、ミステリーとか謎解きよりも、次々とアクシデントに見舞われながら神は愛する者にこそ試練を与えるとのほほんとノーテンキしているテンコのお嬢様ぶりと、物事を度胸と腕力で解決したがるユーリのちょっと違ったノーテンキさの、キャラというか掛け合いのギャグで読ませる小説というべきでしょう。タイトルの「プラスマイナスゼロ」は、その3人トリオの両極端と平均値ぶりを示すもの。美咲がゼロなのは明らかですが、テンコとユーリはどっちがプラスでどっちがマイナスだか。連作のほとんどは美咲が語り手ですが、1つだけ美咲が語り手に見せて別人物が「わたし」だったというトリッキーな短編が入っています。もちろん、作者が意図したのでしょうけど、ちょっと戸惑いました。

01.錯誤配置 藍霄 講談社
 精神科医でミステリー作家の主人公藍霄が、カフェで騒ぎを起こした精神病患者から、7年前に起きて迷宮入りしている女子学生殺人事件の犯行を告白した上で藍霄も関係しているなどという謎の電子メールを受け取り、その後その人物が殺害されたことから事件に巻き込まれ、友人の医師秦博士がその謎を解くという設定のミステリー。7年前の事件は密室殺人もので、その謎解きと、電子メールの作成者の謎と直近の殺人の謎を絡めたものですが、謎解き・どんでん返しというミステリーの醍醐味としては、ちょっと中途半端。犯人は確かに予想外ですし、最後にどんでん返しも用意はしてあるのですが、疑われているのが主人公で、探偵の友人ということですから、語り手自身が犯人という掟破りをしない限りは、7年前の殺人の設定がほころびていることが明らかでそこから密室ものとしてのほころびが見え犯人の特定はできなくてもおおよその方向性が見えてしまうこと、そして最後にもうひとひねりはありますが、ある意味そこは犯人はどっちでもいい感じで、やられたという感じになりません。それはそれとして一つのスタイルではありましょうし、トリック自体はよく考えられているのですが、謎解き情報の出し方にもう少しためが欲しかったなぁという感じです。

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