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【何が判断されるのか】
 民事裁判の判決では、当事者(原告・被告)の主張する事実があったか、どのような事実があったかを認定し、その事実を法律などの判断基準に当てはめて、当事者(普通は原告)の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断します。

《裁判所が判断する事実》
 裁判所は当事者が主張する事実について、何でも判断を示すというわけではありません。裁判所が判断する対象は大きく分けて2つの点で限定されます。
 1つは、当事者の請求が認められるかに影響するかどうかです。実際には、裁判所は、当事者の請求の理由となる法律構成を先に決め、その法律構成によって請求が認められるための要件となる事実を考え、その要件となる事実がこの事件で現実にあったかを認定するという思考パターンを採ります。ですから、当事者が裁判で特定の事実にこだわって、このことを認めて欲しい(判断して欲しい)と強調しても、その事実があってもなくても請求を認めるかどうかに影響しない場合、判断を示さないことが多いのです。
 もう1つは、当事者がその事実があったかなかったかを争っているかどうかです。当事者が争っていない事実は、裁判所は独自に判断せず、当事者の主張(が一致しているその内容)通りだという前提で考えます。仮に裁判所が真実でないとわかっていても、そうするのが建前です。(また、同じ理由から、裁判所は、当事者が主張もしていない事実を勝手に認定することはできません)

裁判所はどちらが正しいかを判断するんじゃないの?
民事裁判は当事者が求めた紛争の解決に必要な範囲でだけ判断するのが建前です。

 結局、裁判所が事実認定で判断を示すのは、当事者の請求を認めるかどうかに影響する事実のうち当事者が争っている(主張が食い違う)事実ということになります。

《裁判所が示す法解釈》
 裁判所が判断を示すのは、事実認定だけではありません。
 一般の方には意外だと思えるでしょうが、民事裁判の大半は、事実認定で決着がつきます。多くの事件では、事実がはっきりすれば、契約や法律の規定によりどうなるかがはっきりし、その結果、当事者の請求が認められるべきかどうかが決まるからです。

 しかし、同じ事実関係でも法解釈によって結果が変わってくる場面もあります。
 1つは、複数の法律構成が考えられ、どちらによるかで結論が変わる場合です。例えば不当解雇を主張して金銭請求するとき、解雇が合理的な理由がなく社会通念上相当とはいえないと裁判所が認めた場合、解雇が無効だとして(労働者の地位の確認と)賃金を請求していれば賃金の支払が認められますが、解雇が不法行為であるとして賃金相当の損害の賠償と慰謝料を請求していても、不法行為と認めるには違法性が足りないとされて請求が認められないということもあり得ます。裁判所は、当事者の主張に拘束され、当事者が主張してもいない法律構成を採ることはできません。
 もう1つは、適用すべき契約や法律の規定が不明確(趣旨ははっきりしていてもとても抽象的なときも同じ)であるか、明確でもそのまま適用すると不当な結果になると考えられる場合です。この場合、裁判所による契約や法律の「解釈」が示されます。例えば、零細企業のワンマン社長が従業員に会社の経営が悪化したといって来月から給料を下げると言い渡して従業員がそれに表だって文句を言えずに給料をもらって3年経ってから賃下げは無効だといって差額分の賃金の支払を求めた裁判で、会社側は3年も黙って受け取っていたんだから従業員も承諾していたと評価できると主張した場合に、賃金は労働契約の最も重要な要素だから黙っていても賃下げを承諾したことになるのは労働者が真意で受け入れたと認められる合理的な理由が客観的に存在することが必要で、賃下げの対象が少人数で反対しにくく、賃金の2割もの大幅な賃下げにもかかわらず代償措置がなく、経営悪化について具体的な資料を示した説明も行われていないという事情から承諾があったとは認められないとした判決があります。ここでこの判決が述べたような考慮事項というか、判断基準は、法律にはどこにも規定がなく、賃下げに対する労働者の承諾についてどう考えるべきかという一般論から導いたものです。別の事件で別の裁判官が判断すれば、別の法解釈をすることも考えられます。こういう形で、契約や法律の条項でははっきりしなかったり、その事案に適切でなかったりするところが、裁判官の法解釈で解決されるということも、時々は、あります。

法律が決まってるから裁判はロボットでもできると思ってた。
事実は事件ごとに違うし、事件に適切な法解釈もいろいろで、そこに味があるんですよ。

《請求に対する判断》
 民事裁判では、当事者が主張する事実のうち裁判所が認定した事実に、当事者が主張する法律構成に即した法律などの判断基準(多くの場合は明確な法律・契約の規定、それが不明確か適切でないときは裁判所が法解釈を示して)を当てはめて、最終的には、当事者の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断します。
 この判断対象の「請求」も、当事者の主張によって拘束されます。裁判所は、通常の民事裁判では、当事者が請求していない請求を勝手に認めることはできません。例えば、当事者が解雇の無効を理由に労働者としての地位確認と賃金支払を請求している裁判で、裁判所が一定額の金銭の支払と合意退職を命じるような判決は出せません(労働審判の場合、通常の民事裁判と性質が違うので、そういうこともできるのではという議論があり、労働者側弁護士と使用者側弁護士の間で対立があります)。また、原告が100万円の請求をしている裁判で、裁判所が被告が悪い奴だということで200万円の支払を命じることもできません。原告が裁判所がそれくらい認めてくれそうだと判断して裁判の途中で請求額を増やす(請求の拡張といいます)ことはできますし、原告が請求額を200万円に増やせば裁判所も200万円の支払を命じることができますが、原告がそうしない場合、裁判所は原告の請求の範囲を超えた判決は出せないのです。

《裁判所がすることは?》
 以上をまとめると、民事裁判では、裁判所は、当事者の請求が認められるかを判断するのに必要な範囲で当事者が主張して争いがある事実について、事実があったかどうか、どのような事実があったかを認定し、当事者の主張する法律構成に沿って、適用すべき法律等の判断基準を当てはめ(それが不明確なときや不適当なときは適切な法解釈を示し)、当事者が請求している範囲で当事者の請求が認められるか、どれくらい認められるかを判断するということになります。
 裁判所が勝手に何でも判断できるのではなく、当事者が求めている請求を判断するために必要な範囲でだけ判断するという裁判所を縛るルールがあるということと、他方で、裁判所に持っていけば何でも判断してもらえるという制度ではない(裁判所は正しい事実を明らかにするところではなく、紛争の解決策を判断するところ)ことを理解しておきましょう。

《民事裁判で勝つには?》
 このような民事裁判での判断の枠組みから考えて、民事裁判で勝つためには何を考えればいいでしょうか。
 まず順当には、紛争での双方の主張や手持ちの証拠から考えて、裁判所で認められそうな事実の範囲を考え、それにより満たすことができる法律構成と請求内容を考えて、裁判を起こし、また裁判での主張を組み立てるということになります。それができない場合には、認められそうな範囲で、自分が正当で現在置かれている状態が正義に反する(過酷である)ことを示す事実を主張して、通常のルール(契約条項や法律の規定)を適用することが不当だと裁判官に思わせるようアピールし、適切な法解釈を示させるということになるでしょう。ただし、後者がうまく行く確率は相当低いということは理解して欲しいところです。

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